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施設介護サービスの利用者(要介護者)について、考えておきたいこと

施設介護サービスの利用者(要介護者)について、考えておきたいこと

施設介護サービスとは?

施設介護とは、心身になんらかの障害を負ったことで、自宅での生活が困難になった利用者(要介護者)が受けるサービスです。基本的には、介護の専門職が常駐している介護施設において、24時間365日の介護サービスを受ける状態になります。

世間的には「老人ホーム」という言葉でひとくくりにされることが多いのですが、高額な民営のものもあれば、安価な公営のものもあり、その種類も様々です。個室の場合もあれば、複数の人が1室を共有するものもあります。認知症に強い施設もあれば、重い認知症になったら退所させられるところもあります。

いかなる介護施設に入居することになるにせよ、そこには、一つ、認識しておかないとならない事実があります。それは、このような介護施設の利用者は、それぞれの人生において築き上げてきた背景があり、その多くと決別してきているということです。

介護施設に入居するまでの過程について

施設介護サービスの利用者とはいえ、ある日突然、自宅からその介護施設に引っ越してくるわけではありません。通常は、その前に様々な医療機関、介護サービスを利用し、多くの専門職との人間関係を構築しています。

なんとか、これまで通りの生活を自宅で続けようとして、つらいリハビリにも耐え、一時期は要介護状態からの回復も夢見ていることが多いものです。それでもついに「これ以上は、自宅では無理だ」という状態に至ってしまったという過去があるのです。

心理的には、希望と絶望を行き来して、悩み、苦しみ、最後の選択として「老人ホーム」を選んでいます。住み慣れた自宅にさよならを告げ、その自宅に溜め込んできた思い出のつまった物も処分し、自分の気持ちに(むりやり)整理をつけて、その上で「老人ホーム」に向かうのです。

人間関係というものは、意外と暮らす場所によって強まったり、弱まったりもするものです。介護施設に入所するときには「きっと遊びに行くから」と言ってくれた家族や友人も、時間が経つと、疎遠になってしまうのも普通です。

自ら喜んで「老人ホーム」に行きたがる利用者もいない訳ではありません。しかし、そうした利用者は少数であり、大多数は、可能ならまた自宅で暮らしたいという願いを持っていながらも、その気持ちを押さえつけて、入居しています。

生きる意欲がないように感じられる?

映画やドラマにも「老人ホーム」に暮らす親の姿が使われることが多くあります。そうした場合は、決まって、生きる意欲がない親の姿が描かれ、切ない気持ちにさせられるものです。しかし、この観察者として感じる切なさは、介護施設の利用者本人が感じているものに比べれば、微々たるものです。

自分の自宅を思い返してみてください。他人から見たら、なんでもないような物で溢れていると思います。しかし、そうした一つひとつに、思い出が詰まっているはずです。自分でも気づかないうちに、私たちは、そうした物と精神的に結びついています。

カビの生えたレコードは、初任給で買ったもので、自立した社会人としての誇りの象徴かもしれません。安っぽい虫かごは、子供とはじめて虫取りに行ったときの幸福の象徴かもしれません。使われなくなったコーヒーカップは、先立たれた配偶者が日常的に使っていたもであり、人生の象徴かもしれません。

施設介護サービスを受けるということは、こうした物の多くとも決別するということです。こうして、本人にとっては重要な物であっても、金銭的価値のあるものは少ないものです。ですから、こうした物の多くは、介護施設への入居のタイミングで廃棄されます。

これは、利用者本人にとっては「身を切る」選択であり、情緒的に深く傷つく事件です。生きる意欲がないのではなくて、傷つき、悲しんでいるのだと思います。大切な物をあきらめることに対して、無理やり「慣れよう」としているのです。

施設介護サービスの職員達の戦い

施設介護サービスの職員達は、こうした利用者の負っている「壮絶な背景」の存在を認識しています。ただ表面的に「意欲がない」といった判断はせず、傷ついている心に(様々な試行錯誤を通して)向き合おうとしてくれる人々なのです。

映画やドラマでは描かれることがないのは、こうした職員達の努力です。限定的ではあっても、そうした努力の結果として得られる利用者の笑顔もまた、一般には全く知られていないシーンです。

施設介護サービスにおいても、介護ロボットの導入や、人工知能による介護の効率改善といった新規事業が増えてきています。しかし、こうした新規事業も、結果として、介護施設の職員達が、利用者の心に向き合う時間を奪ってしまうような形式だと、必ず失敗するでしょう。

深く傷ついている人間には、それに寄り添ってくれる別の人間の存在が不可欠です。新規事業を考え、実行する立場にある人々は、くれぐれも、この点について熟慮しておく必要があると信じています。

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