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7人同時のマルチケア(Sさんのケース)

ケアを必要とする人は1人とは限らない

東京都在住のSさん(30代)は、現在、中学生の長男と小学生の長女を、シングルマザーとして育てています。北関東に住むSさんの祖母2名の介護が始まったのは、およそ6年前からになります。Sさんは、3年ほど前から、本格的に主たる介護者の母親を支える、副介護者の立場でダブルケアを行なってきました。

この頃より、祖母達の介護に手がかかるようになり、母親のケアが忙しくなっていったそうです。母親と同居している父親と妹は、母親が不在になることにより、徐々に自分の生活をコントロールすることが困難となり、体調不良や生活が成り立たないとういう状況が発生してしまいました。

ケアが必要な人数は、生活支援や状況確認も含めると、一時期は7人にまで膨れました。Sさんがケアに携わっていた方は、以下の家系図のような状況でした(ご本人の許可をいただいて掲載しています)。

家系図

それぞれのケアが複雑にからみ合う

Sさんの祖母達の介護、登校拒否を行なっていた長男のケア、母親がいないと生活が成り立たなくなる父親の生活支援、2016年に軽度の知的障害だったことが判明した妹の自立支援、そして仕事がハードワークで身体を壊して一時期緊急入院をした弟の状況確認を行う必要もあったといいます。

Sさんと母親は、これだけの多様なケアが多発し、状況が複雑に絡み合っているケアに日々奮闘していたといいます。毎日、火消しのようにトラブルに対処したそうです。しかし、対応するべきケアの内容が一人一人バラバラで、一つのことに対応すると、他のことが対応困難になるという状況がありました。

そうした中、Sさんは、罪悪感と徒労感に苛まれ辛い状況を過ごされていたといいます。Sさんが最も辛く大変だったと感じたのは、2015年頃のことでした。この頃、Sさんは、フルタイムで勤務しており、大きなプロジェクトをいくつも任されていたそうです。

出張も多かったそうですが、プライベートでは当時小学校3年生の長男が、学校で友達とトラブルを起こすことが増えていったといいます。そして、長男は次第に学校に行きたがらないことが増えていき、Sさんの仕事にも支障が出ていたそうです。

Sさんは、長男の荒れている様子を個人面談のタイミングで担任の教師に相談をしたところ、担任の教師よりスクールカウンセラーを紹介されたといいます。Sさんは、定期的にスクールカウンセラーと面談をするようになりました。

夫婦関係の終わりと診断結果

その中で、当時のSさんの夫婦関係が子どもに影響を与えている可能性を考え、Sさんは夫と別居をする決断をされたそうです。その後、長男の様子は落ち着いていきましたが、後に子ども達の生活面で違和感を感じることがあり、定期的に受診を重ねた結果、子ども達2名は発達障害のグレーゾーンと診断されています。

Sさんはこの頃、長男の対応や実家からも介護のサポートを頼まれることがあり、仕事に集中することが困難になっていったそうです。Sさんは、複雑に絡み合った家庭環境を一度しっかりと整えて、仕事に復帰するという決断をされました。

職場は、Sさんの決断に非常に理解があり、休業を後押ししてくれたといいます。Sさんは、2016年に勤務先の会社の独自の制度である休職制度を活用し、1年間の休職をされました。

Sさんの母親は、北関東に住む祖母2名のケアで毎月1週間ほど遠距離介護を行なっていました。その他にも、祖母達が体調を崩せば、母親は北関東に帰省していたそうです。父親は、母親がケアで忙しくなると、1人で生活を行うことができず、実家の環境がとても散らかっている状態になったそうです。

そうすると父親は、物の場所がわからなくなり余計に1人で生活することが困難になるという悪循環が生じていたといいます。Sさんが休職してまず行なったのは、父親がある程度自立して暮らせるように、父親と一緒に家具の配置や片付けを行いながら、生活しやすい環境を一緒に作ることでした。

妹の自立支援

また、同時期にSさんの妹は仕事のストレスから持病のアトピーが重症化し、実家で静養をされていたそうです。しかし、妹は実家の父親から仕事をするようにと言われたことが、更なるストレスとなり引きこもりの状態になってしまったそうです。

この頃、Sさんは夫と別居しており、母親のケアのサポートで多忙だったそうです。人手があると子ども達をみてもらえるということもあり、妹と同居を始めました。そして、Sさんは日帰りで祖母達の介護のために北関東に日帰りで行くことも可能になったといいます。

やがて、妹は規則正しい生活が送れるようになり、心身ともに元気になっていったそうです。そして、妹は再就職を考えるにあたり、今後ストレスをコントロールしながら生活するためにも、自身が発達障害の疑いがあるのか確認したいと思われたそうです。

受診の結果、妹は軽度の知的障害であるという診断が出たといいます。妹は著しくケアが必要なタイプではありませんが、セフルケアがないがしろになりやすい傾向があるそうです。

誰かが、一緒に食生活や衣類の清潔等に気を配ることができれば、生活は成り立つのですが、母親のケアで忙しくなると妹の生活ペースも乱れて体調が悪化してしまうという状況に陥ってしまったそうです。

現在とこれから

妹は、Sさんと同居しながら生活習慣を整える練習を行い、現在はライフスキルを身につけることができたそうです。妹の次の目標は、経済的な自立が目標担っています。

これだけの多様なケアが複雑に絡み合い、常に家族全体に注意を張り巡らし、異なるケアを日々行う状況は、Sさんの緊張感や徒労感はとても大きかったと想像できます。

Sさんのケースでは、親族内で突然ケアが始まったのではなく、ケアの必要な家族がそれぞれに不調が積み重なり時間をかけて負担が大きくなっていったケースになります。そのような状況の中で、どこに相談すればいいのか、そもそも相談していいケースなのかも分からなかったそうです。

しかも、仕事やケアに追われているので、ここに相談しにいけばいいという確信がなければ、相談そのものが先延ばしになってしまったという状況があったといいます。Sさんのケースのように複雑に絡み合ったケアの相談が一箇所で行える総合窓口の設置が各自治体で進むことが望まれます。

最後にSさんから、同じように沢山のケアを抱えて苦しんでいる方へ向けてのメッセージになります。

ケアで生活がごちゃごちゃしている時に、少し休んで自分の体と心を(生活環境も含めて)立て直すのはおそらく有効だと思います。上司や人事に相談して、会社の休職制度や有給を利用することを考えてください。そのためには、日頃から職場で信頼関係を作っておいたり、同僚と仕事を融通しあえる仕事の進め方をしておけるといいですね。

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