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7人同時ケアの体験談(岩手県Yさんの事例)

7人同時ケアの体験談(岩手県Yさんの事例)

専業主婦として子育てをしながら4人の高齢者をケア

Yさん(岩手県在住・50代)は、2014年に、義理の両親とYさんの両親の4人のケア(介護と手助け)が必要になったため、関東から2人の子連れで岩手県にUターンしました。Yさんの夫は関東で単身赴任をしており、Yさんの弟は海外で生活しています。

こうした背景から、専業主婦であるYさんが、1人で介護や子育てを背負い、約4年間のダブルケアの生活を送りました。Yさんは、当時はダブルケアという言葉を知らなかったそうです。

Yさんは、介護と子育てを同時に行なっている大変さについて、ママ友や子ども達の通う学校など、周囲から状況を理解されにくく、辛い思いをされたそうです。また、介護と子育ての同時進行は、家族やYさん自身の心身にも負担が大きく、Yさんは体調を崩してしまいました。

Yさんは、手術のために入院治療が必要でしたが、義父母や両親の介護、そして子育てをしなければならいないこともあり、夫が岩手県に帰省できる年末年始まで手術入院を半年遅らせて対応されたそうです。

また、同時期に、当時小学生だった長男の登校拒否がはじまり、Yさんは自身の体調管理や介護を行いながら、子ども達の精神的なフォローを行う必要がありました。ただでさえ大変なのに、大変なことが重なってしまったのです。

同時に7人のケアを行うということ

Yさんは3人の高齢者の介護と1人の高齢者の手助けに加えて、子ども達2人の子育て、そしてYさん自身の健康状態にもケアが必要でした。これは、同時に7人のケアを行なっていたということです。想像するだけで、その大変さに胃が痛くなりそうです。以下の表は、Yさんのダブルケア年表になります。

ダブルケア年表

Yさんは多重のケアを担うことで、子ども達のケアが思う様にできないという不安感と危機感を感じました。そこで、Yさんは、子ども達の担任の先生に対して「家庭環境調査票」を通して、苦しい現状を伝えたそうです。

しかし、学校側の反応は、ダブルケアについてはピンとこない様子でした。そんな理解されなかったことに、Yさんは辛い思いをされたといいます。その後、Yさんの心配が現実になったかのように、当時小学5年生だった長男が学校に行きたがらないことが増えました。

朝、学校に行きたがらない長男と、近所に住む実母のデイサービスの送り出しが重なることがありました。Yさんは「息子を登校させたい」「母親をデイサービスで入浴させたい」というジレンマが生じる中、長男の学校とデイサービスに連絡を取りながら、ギリギリの対応をしました。

Yさんが母親をデイサービスまで車で送迎し対応したともあります。しかし、それでも長男が学校に行けなかった日は、実母のデイサービスを諦める日もあったそうです。そうなると、デイサービスに行けなかった実母の介護をYさんがするため、ケアの負担は一気に大きくなってしまいます。

介護の負担が他の負担を生み出してしまう悪循環

Yさんはこの頃、多忙を極めて疲れ果て、子どもの話をよく聞く時間が持てなかったり、イライラして子どもを怒鳴ってしまったり、冷たい態度をとってしまったことがあると当時を振り返ります。そして、その事が長男の登校拒否に繋がった可能性があると悔やまれたそうです。

当時、夫や両親を担当していたケアマネジャーは、Yさんの悩みを聞いてくれたそうです。ただ、Yさんの相談相手として心の整理を一緒に行ってくれたのは、長男の通う小学校のスクールカウンセラーだったそうです。

長男の通う小学校のスクールカウンセラーにも、家族の介護経験があったからです。ダブルケアの大変さについて共感してくれ、それに救われたといいます。スクールカウンセラーからYさんに対してのアドバイスは、次のようなものでした。

まずは疲れきっているYさん自身が一人になる時間を作って休むことでした。そして、Yさんの長男に対しては、転校による環境の変化に、母親に触れ合う時間が減ったことが重なったことが原因ではないかという仮説を立て、母子で過ごす時間を大切にするということでした。

そして、Yさん自身カウンセリングを通して心が楽になっていき、長男との関わり方についてもアドバイスを得られた事で、長男の登校拒否は徐々になくなっていきました。この本当の理由はわからないままではありますが、とにかく、ケアの負担は減ることになりました。

このケースから学べること

ダブルケアに関しては、介護と育児が同時に進行しているがゆえに、母親(父親)が子どもに関わる時間があまり持てないという問題が起こります。そうなると、母親(父親)は、非常に難しい葛藤を抱えることになるでしょう。

これが原因と断言することはできませんが、ダブルケアの当事者からは、子どもの登校拒否や赤ちゃんがえりが見られるという声が複数上がっていることは事実です。ダブルケアの精神的な負担は、ケアされる側にものしかかると考えておいた方が良いかもしれません。

同時に、子どもと一緒に高齢者が過ごすことにより、子どもに思いやりの心が育まれたり、高齢者の活力に繋がったりといったメリットにも目を向ける必要はあるかと思います。

しかし、家族内において介護と子育てが複数生じている場合、介護者自身のマンパワーは、通常の介護よりもかなり限られることになります。その中で、ダブルケアの家庭における子ども達はどのような影響を受けるのかという点に関しては、注意深く周囲が観察していく必要があるでしょう。

そして、日々こなすべきタスクが非常に多いダブルケアに関しては、社会資源をいかに活用して、ダブルケアの環境を改善していくかが重要となります。依然としてダブルケアの社会的な認知度は低い状態が続いていますが、なんとか、より多くの人がダブルケアに関心を向けてもらえることを望みます。

参考文献
・井上裕子(2016)「高齢者を在宅介護する子育て世帯への介護者支援に関する研究の動向と課題」, 国際人間学部紀要, 1−18, 103
・相馬直子(横浜国立大学大学院国際社会科学研究院教授), 『ダブルケアの現状と課題』, 平成31年2月22日(金)〜23日(土)勉強会資料

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