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岩手県のダブルケア活動(成功しつつある事例として)

岩手県のダブルケア活動(成功しつつある事例として)

ダブルケアが増えている

ダブルケアとは、介護と子育てが同時に行われている状態を指す言葉です。親の介護と子育てに限らず、配偶者の介護と孫の相手や、親の介護と障害をもつ兄弟の介護など、複数のケアを同時に行う必要がある状態も、広い意味でのダブルケアと言えます。

そして、ダブルケアは増えています。少子高齢化が進む中、女性の晩婚化と核家族化は当たり前のことになっています。また、夫婦の兄弟数の減少により、親の介護の担い手が減少していることもダブルケアの増加の要因です。

ダブルケアに向き合う世帯は、複数の問題を同時に抱えています。しかし行政は、介護、子育て、障害など、基本的には縦割りの状態にあります。そのため、ダブルケアがはじまると、複数の窓口(制度)を行ったり来たりすることになり、疲弊してしまうことも増えるのです。

こうした縦割り行政を超えて、ダブルケアの支援を行っている自治体は、全国的に圧倒的に少ない状況です。そうした中で、岩手県の事例は、とても勇気づけられるものです。岩手県では、ダブルケアの当事者達が声をあげ、その声を受けて、行政の具体的な支援が始まっているのです。

ダブルケアに関して岩手県で起こったこと

2017年11月、岩手県奥州市にて、ダブルケアに苦しんだ経験のある当事者達が、ダブルケアをテーマとしたシンポジウムを開催しました。主催したのは、ダブルケアの座談会を開催している岩手県奥州ダブルケアの会です。

シンポジウムには、ダブルケアに関する専門家や支援団体、当事者達が登壇しました。そこでは、ダブルケアの実状を踏まえて、求められる具体的な支援について、様々な議題が話されています。

このシンポジウムの流れを受けて、2017年12月に、岩手県議会と奥州市議会の定例会にて、ダブルケアが議題となりました。その後、2018年3月に、高齢者の支援政策である「いわていきいきプラン2020」に、ダブルケアに対して適切なサービスを届けるといった内容が盛り込まれています。

また、岩手県奥州市の第2次男女共同参画計画においても、ダブルケア世帯の負担の軽減を目指し、相談体制の充実、支援体制の整備、介護保険の周知を促進するという内容が盛り込まれています。

さらに、平成31年度からの10年間を計画期間とする岩手県総合計画にて、介護と子育てと仕事の両立、調和を推進する内容が盛り込まれました。岩手県では、当事者の声にボトムアップされる形で、ダブルケアの行政支援が動き出しています。

岩手県におけるダブルケア研究発表と勉強会の開催

2019年2月23日、岩手県奥州市にて、当事者や介護、子育ての専門職に向けて、ダブルケアの勉強会が開催されました。当日は、ダブルケアの第一人者である横浜国立大学の相馬直子教授による講演と、岩手県立大学社会福祉学部の瀬川奈央さんによる研究発表が行われました。

相馬教授からは、先駆的なダブルケアの行政支援活動の紹介と、岩手県の政策の動きについての話がありました。また、アンケート調査から、ダブルケアについての定量的な調査報告が行われています。

瀬川奈央さんからは『子育て世帯におけるダブルケアの現状と課題〜今後求められる支援のあり方〜』というテーマの研究発表が行われました。この研究は、岩手県内の子育て世帯に対するアンケート調査と聞き取り調査を基礎としています。

アンケート調査では「ダブルケアという言葉を知らない」という回答が81%と大多数であることが示されました。また、ダブルケアについて直面していない、今後直面する可能性はないという回答は58%、過去や現在や今後、ダブルケアに直面する可能性があるという回答は36%でした。

こうした研究結果から、ダブルケアに関する認知が進んでいないことが課題の1つとしてクローズアップされました。また、潜在的にダブルケアのリスクを抱えている人も多く、今後もますます具体的な支援が求められていくこともはっきりしました。

岩手県の事例から学べること

今回ご紹介した岩手県の事例は、ダブルケアに苦しんでいる人からすれば、とても勇気づけられるものではないでしょうか。ダブルケアに苦しんでいることを、誰からも理解されないことは、とても辛いものです。しかし岩手県では、少なくとも、そうした状況の改善が進んでいるからです。

岩手県の事例から見えてくることは、まずは、ダブルケアの当事者たちが、孤立せずに岩手県奥州ダブルケアの会を立ち上げていることです。そして、当事者たちのグループとして、シンポジウムを開催し、行政を動かすことにつながっています。

行政もまた、これを他人事にすることなく、客観的な調査結果を踏まえて、支援ニーズを的確に把握しようとしているところが重要です。そして、そこでの学びを、複数の活動の中に入れ込んで、複数の視点から考えられるようにしたことも、話を縦割りの中で埋もれさせないための戦略になっています。

こうしてせっかく動き始めた流れも、放置しておくと止まってしまいます。定期的に、研究発表と勉強会の開催などを行うことで、一度生まれた流れを継続する工夫もまた、注目のポイントになると考えられます。

岩手県の事例から学べるのは、ダブルケアの具体的な支援を作り出すためには(1)異なる立場にある人々がみんなで(2)複数の異なる政策立案の場に意見を持ち込み(3)活動の火が消えてしまわないようにケアしながら、あきらめないで活動を続けていく必要があるということです。

※参考文献
・岩手県保健福祉部長寿社会課, 『いわていきいきプラン2020』(p56–68), 平成30年3月 
・岩手県奥州市, 『第2次奥州市 男女共同参画計画』(p15-16), 平成30年3月
・岩手県, 『いわて県民計画(2019–2028)の概要』(p14, p40)
・岩手県, 『いわて県民計画(2019–2028)第1期アクションプラン–政策推進プラン–』(p54)
・岩手県奥州市ダブルケアの会ホームページ(https://ameblo.jp/piyo-sunflower/)

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