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コンサルティング業界で、昔から指摘されてきた重要な概念に「期待値管理(エクスペクテーション・マネジメント)」というものがあります。これは、普通にビジネスをする上でも非常に重要なものです。また、介護業界にとっても、今こそ、求められる考え方だと思います。
「美味しい」と言われていたのに、実際に行ってみると、高い割にはたいしたことのないレストランは、リピートしないでしょう。「きれいに汚れが落ちる」と宣伝されているので、買ってみたら、ほかの洗剤と変わらなかったら、それをまた買うことはありません。「すごく優秀」と言われていたのに、実際に仕事をしてみたら、普通だったという人材には、二度と声をかけないでしょう。
これらに共通しているのは「美味しい」「きれいに汚れが落ちる」「すごく優秀」というように、その選択(購入など)をする前に、期待値(エクスペクテーション)が高められてしまっていることです。人間は、大いに期待していたのに、それを裏切られると、怒りにも似た感情をもって、そこから離れていくようにできています。
逆にいえば、いかなる物事でも、他者に選んでもらうときは、事前の期待値を高めすぎない(期待させすぎない)ことが大事なのです。このポイントを理解していないと、事実よりも良く見せるような過剰な宣伝を行ってしまい、中・長期的には負けることになります。そして、実際にこの間違いを行っている事例には、事欠きません。
「とにかく、良い印象を宣伝しろ!」といった間違った戦略が、よく採られています。これは、商品を売るときはもちろんですが、基本的に、他者に対して何かを提案するときは、常に気にしなければならない「落とし穴」です。そして、私たちのキャリアは、そのほとんどが、提案の上手い下手で決まってしまうことを考えると「期待値管理」の重要性があらためて認識されます。
介護業界は、人材不足に悩まされています。その一番の原因は、待遇の悪さであるという指摘は、過去に何度も行ってきました。本質的には、待遇を改善しない限り、介護業界は確実にダメになってしまいます。
しかし、待遇の改善は遅々として進んでいないように思えます。本丸の待遇改善はウヤムヤなまま「人材確保のために、介護業界の魅力を発信しよう!」というような動きがあり、心配してしまいます。「こんなに、素晴らしい仕事だよ!」と宣伝して人材を確保しても、現実のほうが改善されていないと・・・。
ちょうど、フジテレビ系ドラマ『いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう』が、介護職の過酷な労働環境(厳しい夜勤、月収14万円)という状況設定を行い、それに対して、介護業界がクレームを入れたというニュースが話題になっていますね。
介護業界としては、いかにそれが現実に近くても、影響力の大きなメディアで、不必要に悪い印象を伝えられてしまうのはさすがに問題です。クレームを入れるところまでは、当然だと思います。しかし同時に、介護職の待遇改善についても、進めていかないとなりません。
人材が働く環境を選ぶときはもちろん、いかなる商品であっても、通常は「相対評価」をしています。他の業界と比較して、介護業界が働くに値するのかを考えているわけです。
「期待値管理」の基本は、大きく言って(1)期待値を下げる(2)現実の価値を高める、という2つのアクションからできています。期待値が低すぎるのも問題なので、先の介護業界によるドラマへのクレームには、意味もあります。
しかし、それを意図していなかったとはいえ、介護業界に対する期待値は、もはや十分に低くなっています。ここに対しては、もう、アクションはいらないのです。「4Kの職場(きつい、汚い、危険、給料安い)」ということは、人材市場にも伝わっています。
そう考えると、介護業界は、しっかりと現実の価値を高めていく活動をすれば、あとは自然と人材が定着し、労働満足度の高い業界をつくり上げられる可能性が高まります。
「人材確保のために、介護業界の魅力を発信しよう!」ということも大事かもしれません。しかし「期待値管理」という側面からは、これに力を入れすぎると、おかしなことになります。
当たり前なのですが、現実に働いている人々が、職場環境を改善し、その現実を素晴らしいものにすることが王道なのです。現実のほうが改善していないままに、期待値をあげて人材を確保すれば、恐ろしく高い離職率という未来が見えています(すでに離職率も高いですが・・・)。
「あれも、これも大事」と言いたくなるのもわかります。しかし「介護職の現実を改善する」という王道をブラすのはよくありません。しつこいですが、それは介護職の待遇改善です。現実を良くする以外に、労働満足度が高く、定着率の高い業界をつくることはできません。
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