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介護施設での、介護職員による虐待・暴行・殺人がニュースになっています。こうしたニュースの多くは、原因を「介護職員の介護知識・技術が足りない」「ストレスが大きく介護疲れがある」というところに求めます。しかし、この論調は偏っています。
この偏りについては、以前も『高齢者の虐待に関する報道には、決定的に欠けている視点がある』という記事で指摘しました。
まず、誤解を避けるために強調しておきたいのは、虐待はいけないということです。介護職員による虐待を肯定するつもりは全くありません。狂っているとしか思えない、全く同情できないケースもあります。
ただ、継続して主張したいのは、介護をする側だけでなく、要介護者の中にも、かなり暴力的だったり、セクハラ(完全な性犯罪もある)をしたり、色々と手に負えない人がいるという事実も、広く認識されるべきだということです。
もちろん、大多数の要介護者は、そんなことはしません。同時に、大多数の介護職員も、善人であることは忘れてはならないでしょう。ニュースになると、どうしても、全体の印象が悪くなってしまうのは、本当に困りものです。これが、差別などにつながってしまわないように配慮する必要があるのは、言うまでもありません。
今年に入ってからは、少なくとも3件、要介護者による暴行・殺人事件が報道されています。あまり広域で報道されていないので、注意してニュースを拾っていないと、気がつかないかもしれません。
・産経ニュース, 『埼玉・戸田の老人ホームで入居者女性殴り死なす 入居者男を逮捕「うるさかったから…」』, 2016年1月4日
・産経ニュース, 『浜松の福祉施設、60代高齢入所者2人が介護士を暴行 容疑で逮捕』, 2016年1月13日
・日テレニュース24, 『介護施設入所女性が死亡 認知症男性を聴取』, 2016年2月16日
少ないながらも、介護施設で要介護者が起こす事件は、こうして報道されることも(珍しいですが)あります。しかし、在宅介護されている要介護者によるものは、まず、表に出ないし、報道もされません。
在宅介護をしている家族・親族の場合は、逃げ場がないことも強調したいです。要介護者を介護施設に入居させようとしても、攻撃性が強すぎたり、度を超えたセクハラが目立つ場合は、入居を拒否されることもあります。こうした要介護者は、自宅にいても大声を出したり、物を破壊したりもするので、近所からも非難され、家族は追い詰められていきます。
介護職員であれば、最悪、このような暴力的な要介護者のいる施設を辞めることができます。しかし、在宅介護で対応している家族には逃げ場がないのです。なお、家族・親族だからということで、セクハラされないわけではありません。こうした切羽詰まった事情から発生している、家族・親族による要介護者の虐待もあるかもしれないという視点は、大事だと思います。
厚生労働省の発表によれば、2014年度は、介護職員による虐待は300件でしたが、家族や親族による虐待は1万5739件もあったのです。在宅介護における虐待は、介護施設における虐待の「50倍以上」も発生しています。
よく使われる「認知症への理解」という言葉は、本当に困っている家族・親族からすれば「そういう病気なのだから、我慢しろ」と言われているように感じます。しかし、ユマニチュードをはじめとした、様々なコミュニケーション手法を試みても、暴力が止まらない要介護者への対応は、どうすればよいのでしょう。「認知症への理解」が進むと、暴力やセクハラは止まるのでしょうか。
仮に「介護職員の知識・技術の向上」を進めたとしても、家族・親族の環境は変わりません。さらに今後は、介護保険の財源不足から、在宅介護が増えていきます。ですから、対策の本丸が、介護職員の研修ではないことは明らかです。
具体的には、問題行動を起こす要介護者の実情を調査するところからはじめてもらいたいです。要介護者全体の何%くらいに、こうした危険性があるのかを数字でみれば、これが杞憂なのか、それとも社会問題なのかがはっきりします。
人数が少ないことがわかったとしても、問題行動を起こす要介護者は、鎮静剤などが有効でない限り、残念ですが、ある程度隔離・拘束された環境に置かないとならないのかもしれません。とにかく、こうした要介護者には、社会としてどう対応すべきかを考えていかないと、介護をめぐる暴行・虐待は、今後も増えていくだけです。そして、その加害者は、介護をする側とは限らないのです。
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