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介護をめぐる殺人事件の加害者について調査したところ、その7割までもが男性であったということがニュースになっています。ただ、このニュース、報道のしかたの問題だと思うのですが、これだけでは誤解を生んでしまいます。まず、毎日新聞の記事(2016年2月14日)より引用します。
今年1月、1998〜2015年の18年間に、60歳以上の被介護者が家族・親族に殺されたり、死亡させられたりした事件を毎日新聞など30紙の過去記事を基に集計した。介護による疲れや将来への悲観が背景として疑われるケースに絞っている。
その結果、全国で発生した介護殺人や心中は計716件だった。夫婦間333件(47%)と子が親を死亡させたケース331件(46%)が大半を占めた。加害者の性別をみると、男性512件(72%)、女性194件(27%)、不明か複数犯10件(1%)と男性の多さが際立っていた。
これだけ読むと「介護は、男性にやらせてはダメだ」という感想になってしまいます。結果として、介護業界はやはり女性の業界だということになってしまったり、家庭における介護がますます女性に課されてしまうことにもなりかねません。
そもそもなのですが、日本におけるすべての殺人事件に焦点を当てた場合、加害者の約8割が男性です。介護をめぐる殺人に限定すると、男性の加害者が7割ということは、介護ではむしろ女性による殺人が際立っているわけです。おそらく、実際に介護で悩んでいるのは女性のほうが多いからでしょう。
一般に、男性の殺人は、ちょっとしたトラブルや口論から殺人に至ってしまうケースも多く、男性の短絡性・衝動性がうかがえます。介護においても、蓄積されたストレスが前提となってはいるものの、衝動性について調査する必要がありそうです。
逆に、女性による殺人は、ノイローゼから発生することが多いとされます。ここから、介護においては、女性のほうがむしろ危険である可能性が見えてきます。こうしたところに注目して、介護において、男性・女性が、それぞれに注意すべきことというレベルで話をまとめないと、意味がありません。
男性介護者の特徴は(1)周囲に介護の相談することができず、介護をうまくこなせない自分を責める傾向がある(2)介護にまじめで一生懸命になり、周囲に迷惑をかけず、自分でなんとかしようとする(3)とにかく介護を一人で抱え込み、こうした傾向が長期化しやすい、というあたりにあることが研究によってわかっています。
こうした状況が積もり積もって、ある日、ちょっとした口論から、衝動的な殺人に至ってしまう可能性もあるということです。男性は、やはり、自らの衝動性に注意する必要があるでしょう。とにかく、介護を一人で抱え込まないことが大切です。
「自分も危ないかも」と感じる男性は、ケアマネ、自治体の窓口や地域包括支援センターなどに相談して「家族会」に出席してみてください。一人で抱え込んで、よい結果になる介護がいかに少ないか、実感することが大事だと思います。
※参考文献
・毎日新聞, 『加害7割が男性 716件分析、孤立やストレス』, 2016年2月14日
・鈴木隆徳, 『性差から見た殺人形態の分析』, 日心第72回大会(2008年)
・斎藤真緒, 『男が介護するということ ─家族・ケア・ジェンダーのインターフェイス─』, 立命館産業社会論集, 第45巻第1号, 2009年6月
・西尾美登里, et al.,『在宅で認知症を有する療養者を介護する男性介護者の対処尺度項目の検討』, バイオメディカル・ファジィ・システム学 会誌, Vol.16, No1(2014年)
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