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要介護認定のインセンティブ(望ましい行動を生み出すための刺激)設計は、どうなっているのか?

要介護認定の卒業

要介護の認定度合いが下がると損をするのか?

例えば、介護施設によっては、要介護の認定度合いが下がると、そこを追い出されます。家族としては、もはや、要介護者の在宅介護は無理と判断して、介護施設にお願いしているわけで、いきなり退所と言われても、とても対応できません。

また、そもそも介護保険でまかなえる介護にかかる費用は、要介護の認定度合いが下がると、減らされてしまいます。介護の現場では、そうしたことを理解した上で、ケアマネやヘルパーが、要介護認定のときに、認定度合いが低くなってしまわないように配慮したりするのは、日常的に起こっています。

さらに、介護事業者からすると、利用者(要介護者)の認定度合いが下がると、収益が悪化する構造になっています。ただでさえ、介護事業者の経営破綻が増えている今、どこの介護事業者にとっても、利用者の認定度合いが下がることは死活問題です。

現在の介護制度のインセンティブ設計

要介護の認定度合いは、本当は下がったほうがよいのです。それは、介護が楽になるということもありますが、なによりも、要介護者本人にとって要介護の認定度合いが下がることは、自立できる状態に近づくということだからです。

介護制度におけるインセンティブ(望ましい行動を生み出すための刺激)設計としては、誰もが、要介護の認定度合いが低くなるように努力する方向であるべきです。しかし、一見すると、介護制度のインセンティブ設計は、要介護の度合いが下がると損をするような形になっているように感じられます。

ただ、これは一方的な見方です。

要介護の認定度合いは、そもそも「介護の手間が、どれくらいかかるか」ということを表しています。ですから、要介護の認定度合いが高いと、確かに、介護保険の限度額も高くなりますが、同時に、手間もかかるのです。

手間がかかるということは、家族からすれば時間を奪われることです。介護事業者からしても、手間がかかるということは、人件費など(コスト)がかかることです。こうした手間に対して、介護保険が使われるわけですが、同時に、時間や人件費のように、失われているものもあります。

ですから、現在の介護制度は、要介護の認定度合いが下がることにも、インセンティブが働くようになっています。本当の問題は、こうしたインセンティブを正しく運用しない人もいることです。では、だからということで、現在の介護制度は「悪い」ということになるのでしょうか。

一部で、現実に則さない要介護認定が行われているのは事実

財源のない自治体においては、本当はもっと高い認定度合いであるべきところで、それが低く出るという事例がみられます。あくまでも、現場にいるヘルパーやケアマネの実感で、本当の裏側はわかりません。しかしそれでも「さすがに、おかしい」というケースも少なくありません。

また、逆に、要介護認定をする側からも、認定のために訪れたときに、明らかに演技をしている高齢者がいると聞きます。ここには、ヘルパーやケアマネによる入れ知恵があるのは、否定できないでしょう。

きちんと設計されているインセンティブが、この運用において、一部で無意味な攻防を生んでしまっているのです。最悪のケースでは、行政と現場がお互いに不信感を持っていて、あるべき連携に支障をきたしていると感じられることもあります。

だからということで、インセンティブ設計を変更するのは賢くない

そもそも、まともな介護事業者は、要介護の認定度合いが多少上下しても、それによる利益の影響はないようにコントロールしています。そうした、正直に頑張っている介護事業者の負担を増やすような変更は、間違っています。

多くの人は善人です。ですから、介護制度のインセンティブも、善人によって運用されることを前提として設計されています。その理由は簡単で、信頼をベースにした「性善説」による制度設計をしたほうが、全体の運用コストが安くなるからです。

逆に、相手を悪人と疑って、契約やルールでガチガチにされた「性悪説」による制度は、運用コストが高くなります。そうすると、本来は、要介護者の自立のために使われるべき介護保険の財源が、制度の運用のために使われてしまいます。

色々と問題もあるのは事実です。とはいえ、現在の介護制度のインセンティブ設計は、それなりに優れたものです。これが、一部の不正によって「性悪説」の制度のほうに寄ってしまうと、ただでさえ破綻しそうな介護保険自体が危なくなってしまうのです。

監査や事業所評価を増やせば、こうした不正は減らせるでしょう。しかし、監査や事業所評価には、多大なコストがかかります。そうしたことにコストをかけて、本来はもっと支払われるべき介護のプロの待遇が改善されないままというのは、間違っていると思います。

非常に難しい問題ですが、なんとか「性善説」による介護制度が維持されてほしいと願っています。そして、なんとしても、介護のプロの待遇改善を進めてもらいたいです。
 

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