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自分の健康状態を時系列として把握するため、運動量や食事、睡眠や薬の服薬など、様々な事柄を記録している人は多いでしょう。ただ、そうした記録するという行為が、もしかしたら、健康を悪化させてしまうかもしれないのです。
例えば、睡眠の品質を診断するアプリで、自分は不眠症だと知ったとしましょう。そうすると、不眠症が悪化してしまう可能性が出てくるのです。以下、WIREDの記事(2019年9月3日)より、一部引用します。
不眠症などの病気の症状についてあれこれ考えるほど、むしろ症状が起こりやすくなることがわかっている。これは「ノセボ効果(nocebo effect)」と呼ばれるものだ。効き目のある薬だと思いこんでいれば、たとえ砂糖でできた偽薬であっても回復がみられる現象を「プラセボ効果」と呼ぶが、ノセボはその邪悪な双子のような存在である。(中略)
症状の記録は体調の変化を把握するうえで役立つが、同時に不安状態を生み出す場合もある。さらには、苦痛を増幅させる可能性すらある。これは期待や予想がわたしたちの感覚をかたちづくるからだ。(中略)人は誰でも、ほとんど気づかない程度の痛みや不快感を感じているものだ。症状を記録することで、こうしたものに注意を向けて増幅してしまう可能性があるのだと、カナダのエドモントンの内科医であるロバート・フェラーリは指摘する。
記録しておくことで、病気の早期発見ができることもあります。科学的な態度としては、健康について定期的に正しく計測し、それを分析して、行動を変化させていくことは大事です。しかし、あまりに気にしすぎると、かえって健康によくないという認識も必要でしょう。
病は気からというのは、あながち嘘でもないのです。健康について考えることが、本人の不安や心配につながってしまうなら、問題となります。しかし、病的に記録に固執していないかどうか、自分ではなかなか認識できないという面もあるかもしれません。
その意味では、その個人が、自分の健康についてどれくらい把握していて、それをどう感じているか、周囲が気にしてあげることも大切でしょう。将来的には、健康を記録するようなアプリの側でも、ノセボ効果のリスクを避けるような仕組みが導入されていくべきだと思います。
そもそも、ノセボ効果のようなものは、ガンの告知問題の議論において、世間の注目を集めたはずでした。KAIGO LABでも『高僧とガン』という逸話について記事にしたことがあります。個人には病気の事実を知る権利がありますが、同時に、その内容次第では、知ることが病気を悪化させてしまうかもしれないのです。
データにもとづく判断は、現代社会の常識になってきました。しかし人間の気持ちは、そうした現代の常識についていけていない面もあります。事実はとても大事ですが、しかし、事実だけが大事なのではありません。
QOL(Quality Of Life)が重要なのであって、事実は、QOLを向上させるためのものであるべきでしょう。終活が、QOLを低下させるかもしれないという指摘もあります。私たちは、事実の取り扱いについて、今一度考えるべき時に来ているのでしょう。
※参考文献
・WIRED, 『病状を記録し続けると、それだけで体調が悪化する!? 記録アプリや睡眠トラッカーの落とし穴』, 2019年9月3日
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