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2019年1〜6月(上半期)における介護事業者の倒産件数は、介護保険制度が開始された2000年以降で過去最多となる55件となっています。こうして、過去最多ということがニュースになるのは、毎年の行事のように普通のことになってしまっています。
認識しておきたいのは、こうして倒産する介護事業所の8割は、自宅での介護(在宅介護)を支えている小規模事業者だというところです。これに対して、従業員が移動する必要がなく、まとめて介護サービスが提供できる老人ホーム(施設介護)は、まだなんとか持ちこたえています。
民間の老人ホームは、一時入居金が数百〜数千万円であり、かつ、毎月の利用料は25万円以上になることが普通です。公的な老人ホームである特別養護老人ホームは、もっと安い金額で入居することができますが、満室であるだけでなく、重度の介護(要介護3以上)でないと利用できないのが実情です。
民間の老人ホームに入居するために必要となる高額なお金を支払えるのは一部の富裕層だけなので、多くの人は、在宅介護が頼りになります。しかし、そんな在宅介護の担い手である小規模事業者は、どんどん淘汰される時代になってきました。
一般には、介護業界は、成長産業だと考えられています。介護を必要とする高齢者が激増していくのですから、そのように考える人がいても無理はありません。しかし現実には、小規模事業者の倒産が相次いでいます。その背景について、以下、女性自身の記事(2019年9月6日)より、一部引用して考えてみます。
倒産件数は年々増加傾向で、その主な原因については、(1)介護報酬の改定による報酬額の減少、(2)介護業界に参入する新規事業者が増加し、競争が激化、(3)深刻なヘルパー不足、などを挙げている。(中略)
「倒産のいちばんのきっかけは、’15年の介護報酬の引き下げ。これによって、同じサービスを提供しても利益は1〜2割減りました。スタッフの給与を維持するために、配食や病院への付き添いなど介護保険外サービスで収入を増やそうとしましたが、スタッフの理解が得られず、人材不足などの問題にも直面して、経営はどんどん悪化。小さな事業者はもともと体力がないので、介護報酬の引き下げをきっかけに経営が苦しくなるパターンに陥りやすいのです」
そして、小規模事業者が抱えるもう一つの大きな悩みは、人材が集まらないという問題だ。昨年12月、全国ホームヘルパー協議会が発表した資料によると、ヘルパーを募集しても「応募がない」と回答した訪問介護事業者は全体の約9割。ヘルパー不足が経営を厳しくしている現実がある。(後略)
介護報酬(介護サービスの対価)が減らされていくという流れは、介護を必要とする高齢者が増えるのに対して、現役世代が減ることで税収が頭打ちになっていく未来を考えると、仕方のないことです。国の財源が潤沢になっていく未来は、なかなか想定できない状況です。
そして介護報酬は、介護業界の人件費の財源です。介護報酬が減っていくのに、介護業界で働く人は増えていきます。そうなると、介護業界の待遇は、今後も、そう簡単には増えていかないでしょう。今後も、介護業界の人材不足は解消されない可能性が高いのです。
小規模事業者が淘汰されていくという流れは、止められそうもありません。そうなると、介護業界は、大手企業だけの世界に近づいていきます。しかし大手企業の多くは、収益性の高い老人ホーム(施設介護)を経営していることがほとんどで、在宅介護にフォーカスしている大手企業は(ほぼ)皆無です。
私たちの未来は、在宅介護を、介護のプロに頼らずに進めていかなければならないという方向に固定しつつあるとも言えます。親の介護は、運の問題ではなく、ほとんどの人にやってくる未来です。その時、十分なお金がない場合、私たちには介護離職と貧困の危機が同時にやってくることになります。
※参考文献
・女性自身, 『上半期過去最多の55件 倒産した事業主が語る介護経営の実態』, 2019年9月6日
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