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入居者が仕事をして収入が得られる介護施設(リールステージ)

入居者が仕事をして収入が得られる介護施設(リールステージ)

人間は誰もが社会から必要とされる存在でありたい

仕事があるということは、社会から必要とされていることの証明であり、私たち人間の尊厳にも関わることです。近代社会では、高齢者は定年退職という制度によって引退することになっていますが、それは決して喜ばしいことではありません。

定年退職というのは、一般に考えられているように「毎日が日曜日」「悠々自適の趣味生活」というわけではありません。その実態は孤独であり、社会から必要とされないことに日々苛立つような、そんな日々なのです。もちろん、定年退職後の生活を楽しめる人もいるでしょうが、それは決して大多数ではありません。

人間には精神的機能、肉体的機能、社会的機能がありますが、加齢とともに衰える肉体的機能は仕方がないにせよ、社会的機能については、定年退職という制度が人為的に奪ってしまう機能でもあります。理想的には、私たちは、人生の終わりませ仕事を通して社会に必要とされるべきだと考えられるのです。

入居者が仕事をして収入が得られる介護施設

そうした中、介護を必要とする高齢者に仕事をしてもらうという流れが、少しずつではありますが、生まれて来ています。日経新聞に、奈良市の事例が掲載されていた(2019年9月5日)ので、そちらから、以下、一部引用します。

介護事業などを手掛けるリールステージ(奈良市)が、施設に入居する高齢者が「仕事」で収入を得られる仕組みづくりに乗り出した。要介護度が低い希望者に、月に最大数万円程度を稼げる軽作業を提供。本人や家族の経済的負担を軽減する。(中略)

要支援1~要介護2の人を対象に希望者を募り、あをに工房と業務委託契約を結んでもらい、再委託する仕組み。労働者ではなく「パートナー」と位置づけ、施設側は支援や助言を行うとの立場だ。現在15人程度が週数回、1~2時間程度作業する。

作業者が手にした収入の使い道は自由。年金だけでは賄えない入居費の足しにしたり、孫への小遣いにしたりすることも可能だ。家族の経済的負担が増大する傾向があるなか、施設の魅力アップにつなげる。(後略)

人手不足の時代における救世主となるか?

こうした介護を必要とする高齢者が、介護の一環として仕事を任されるということは、人手不足の時代における救世主となるでしょうか。障害によって仕事の内容が制限されるとはいえ、テクノロジーは、そうしたハンデを小さくする方向に発展していきます。

介護をされる高齢者にとっても、年金以外の収入源があれば、貯蓄の不安も少なくなり、様々なことにチャレンジできるようにもなるでしょう。それは結果として経済にプラスとなり、日本の閉塞感も和らいでいくことにつながるかもしれません。

超高齢化社会においては、年金の財源を確保することが難しく、働かなくても良いだけの年金がもらえるような状態を維持することはできません。だからこそ逆に、介護を必要とする高齢者であっても、仕事をしてその対価を得ていくことができるような環境が作れないと、日本は破綻してしまいます。

問題は、やりがいのある仕事がどれくらいあるか

そこで問題になるのは、やはり、やりがいのある仕事がどれくらいあるかという部分でしょう。高齢者の人生経験が活かせる、障害があってもこなせる仕事となると、なかなか思いつくのに苦労します。そもそも、やりがいのある仕事というのは奪い合いという側面もあります。

これを介護とする案は、かなり昔からあります。いわゆる老老介護とは異なり、高齢者が、他の高齢者を介護することから対価を得るという意味での介護です。介護のプロとして、高齢者にも働いてもらうことができたら、介護業界の人手不足も(少しは)改善するからです。

しかも、介護に関する基本的な知識を得るのは、高齢者こそ、もっともそこからの恩恵があることです。介護予防や介護の重度化を避けるための知識は、そうした高齢者の健康寿命を伸ばすことにもつながるはずです。この点について、もっと、しっかりとした接続が整備されることが鍵になってきそうです。

※参考文献
・日本経済新聞, 『仕事のできる高齢者施設、軽作業で月に数万円想定』, 2019年9月5日

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