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介護業界の倒産件数は、調査をするたびに、過去最多を更新し続けています。介護の事業経営は難しく、国の介護財源が枯渇する中で、介護サービスで利益を上げにくくなっていることが真の原因です。利益が上がらなければ、人件費を高めることもできず、人材の確保が困難になります。
では、介護業界が、利益を出すために、十分な経営努力ができているかというと、そうでもありません。特にIT化という意味では、まだまだ改善の余地があったりします。しかし、経営が厳しくて、ITを導入する余裕がないというケースも多く、もどかしい状態が続いています。
こうした状況では、大きな資金力を持った企業が、経営が厳しくなった会社を買収(M&A)し、効率化を進めることで、利益を改善できる可能性が高まります。実際に、介護業界では、そうした買収が増えてきているようです。以下、日経新聞の記事(2019年8月27日)より、一部引用します。
介護を軸にしたM&A(合併・買収)が増えている。介護サービス業者に加え関連機材やシステムを扱う企業への買収や資本参加は、2019年1~6月に国内で63件と前年同期より7割増となった。人手不足が進むなかでM&Aによって事業を広げる動きにくわえ、ハイテク企業の技術を取り込んで質の高いサービスを目指す企業が目立っている。(中略)
介護サービスは中小・零細事業者が多く、人手不足や介護報酬の実質減額などで経営不振に陥るケースも少なくない。東京商工リサーチによると、1~6月は「老人福祉・介護事業」の倒産は前年同期から10件増えて55件。上半期としては00年以降で最も多かった。それでも介護事業者のM&A仲介会社ブティックスの速水健史常務によると「介護が必要な人にサービスを続けるため、経営が厳しくなると廃業より事業や会社の譲渡を選ぶ業者が他の産業よりも目立つ」という。(後略)
他の業界をそれなりに見てきた人間として感じるのは、介護業界は、業界で働く人々の「強い思い」の存在によって成り立っているということです。他の、より待遇の良い業界ではなく、介護業界で頑張っている人々ですから、当たり前のことです。
割に合わない仕事でも、誰かがやらなければならない仕事だからこそ(ギリギリの状態でも)頑張っている人々が、介護業界を支えてくれています。経営が苦しい介護事業者でも、そこの介護事業の創業者の思いに共感して日々の仕事に向き合っていることも多いでしょう。
そうした介護事業者を買収する場合、創業者と創業者の思いを維持できるかどうかが大きな議題になるはずです。仮に、創業者が、事業売却によってその事業からいなくなってしまえば、そこの介護事業者を支えてきた現場のキーマンもまた、その事業からいなくなる可能性が高いと考えられるからです。
せめて、買収をして親会社になるのが介護業界の会社であれば、なんとかなるかもしれません。しかし、最近のM&Aでは、異業種による介護事業者の買収が増えてきているそうなので、やはり、創業者のビジョンが引き継げるかどうかは、重要なポイントになります。
そもそも企業の買収は、購入後に、文化を含めた様々なところを1つに統合できるかどうか(PMI: Post Merger Integration)が成否を決めるカギとなります。その時、買収する側が、どこまで、利用者(要介護者)のことを考えることができて、また、介護現場で働く人々をリスペクトできるかは、とても大事です。
事業を数字で考えるトレーニングを受けている人は、もしかしたら、そうした自分の強みが、介護現場の人々とのコミュニケーションにおいては、弱みにもなりかねないという危機感を持つべきかもしれません。
買収される介護事業者は、もちろん、そうした部分が弱いからこそ、財務的に厳しくなっているわけです。しかし、そうして利益を圧縮し、買収されるようなことになったとしても、とにかく守ろうとした大事な価値があるわけです。その多くは、綺麗事ではない顧客(利用者)第一主義です。
普通のPMI(Post Merger Integration)であれば、むしろ、顧客第一主義の意識が足りなすぎるのを改革することになるでしょう。しかし介護事業者のPMIにおいては、もしかしたら、強すぎる顧客第一主義を弱めるという、キーマンの流出とセットになったPMIになるかもしれません。
※参考文献
・日本経済新聞, 『介護のM&A7割増 1~6月、異業種参入相次ぐ IT化で質を高める』, 2019年8月27日
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