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70歳以上の高齢者を雇用する事業所に特典?浜松市の取り組み

70歳以上の高齢者を雇用する事業所に特典?浜松市の取り組み

70歳以上の高齢者を雇用する事業所に特典

失業していない高齢者を増やすことは、日本の未来にとって重要なことです。人口減少社会にあって、労働力が確保できます。所得の分だけ納税額も増えますし、老後の資金が足りずに生活保護となってしまう高齢者も減らせます。高齢者の健康にとっても、良い影響が期待できます。

問題は、企業の目線からして、高齢者を積極的に採用する理由があるかという部分です。同じように教育をするのであれば、若手人材に教育した方が、その見返りはより長期に渡ります。残念ですが、新しい技術などへの対応も、若手人材の方が一般論としては上手でしょう。

そうした中、浜松市が、高齢者の雇用に積極的な企業を認定し、入札などの時に優遇するという方針を発表しています。難しい課題であり、具体的な対策をなかなか打ち出せない自治体が多い中、注目です。以下、中日新聞の記事(2019年7月27日)より、一部引用します。

浜松市は、七十歳になっても活躍できる都市を目指し、高齢者の雇用に積極的な事業所を認定する制度を始める。応募期間は八月一~三十日。市は審査を行い、早ければ九月中旬から順次認定し、市ホームページと市公式就職情報サイト「JOBはま!」で事業所名を公表する。

「高齢者活躍宣言事業所」の認定証交付を受けた事業所は、市発注の入札参加時に特典が得られる。公募型プロポーザル方式の業務委託は加点され、物品購入では優先選定の対象となる。事業所は職員募集案内などで認定をPRでき、イメージアップも期待できる。(後略)

高齢者ばかりが優遇されるということにならないように

まずは高齢者からとしても、自治体による施策ですから、高齢者ばかりが優遇されるということがあってはなりません。他にも、ミッシング・ワーカーのように、なんらかの理由で、雇用から遠ざかってしまっている人々が多数います。就職氷河期からずっと不遇の環境に苦しんできた団塊ジュニア世代への支援も必要でしょう。

自治体による施策であるということもそうですが、社会福祉という視点からも、高齢者に限らず、より広い範囲の人々を支援の対象にすべきだと思います。相手が高齢者かどうかではなく、社会的な要因によって不運なキャリアを強いられてきた人々のためにこそ、税金は使われるべきものだと考えるからです。

そして意外と忘れられてしまうのですが、雇用というのは天然資源ではなく、リスクをとって事業を生み出す人々が(当たり前のような長時間労働を通して)創出するものです。その意味では、雇用の創出に対する投資があってはじめて、こうした浜松市のような取り組みも活きてきます。

より具体的には、地元で起業をしたり、リスクをとって新規事業をスタートさせる地元企業をターゲットとし、そうした企業が高齢者をはじめとして、社会的な要因によって不運なキャリアを強いられてきた人々を雇用する場合、無利子・無担保で資金を貸し付けるといった制度が必要ではないでしょうか。

当たり前ですが、雇用をすると、給与として、お金が先に出て行きます。このお金は、後になって、入札で優遇されることなどで戻ってくる可能性もありますが、定かではありません。そうした厳しい条件で、積極的な雇用ができる企業は、すでに十分に成功している企業だけでしょう。

教育にお金をかけることが保守本流であることを忘れない

経営学には、BSC(Balanced Score Card)という発想があります。これは、財務・顧客・業務プロセス・人材という4つの視点でできているフレームワークです。まず、組織経営において、最終的に重要なのは財務の視点(お金)です。お金がないと、事業を継続することができず、雇用も守れないからです。

しかし、財務の視点というのは、その組織がいかに顧客を満足させてきたかという顧客の視点の結果です。ここで顧客の視点での評価が原因であり、財務の視点というのはその結果に過ぎないと考えれば、財務の視点よりもむしろ、顧客の視点の方が重要であることが理解できるでしょう。

しかし、多数の顧客を継続的に満足させるには、その組織が、どれだけ優れた業務プロセスを持っているかに依存します。1人の天才に依存するのではなく、普通の人であっても顧客を満足させられるようなビジネスモデルが重要なのです。ここで、顧客の視点は結果であり、業務プロセスが原因になります。

では、そうした優れたビジネスモデルは、誰が生み出すのでしょう。それは人材をおいて他にありません。人材の教育が、全ての組織経営に共通するもっとも重要な要因であり、その組織の存続を決める原因になっているのです。これは企業の場合に限定されず、国家にとっても同じことです。

自治体としての存亡をかけて、高齢者の雇用を創出することは、とても大事なことです。浜松市の取り組みが、良い結果を生み出すことを願っています。同時に、長期的な視点からは、結局、もっとも重要なのは、その自治体が、住民の教育に対して、どれだけのコストをかけられるかというところなのです。

※参考文献
・中日新聞, 『「高齢者活躍宣言事業所」浜松市が認定制度』, 2019年7月27日

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