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介護事業の倒産件数、またもや過去最多に・・・

介護事業の倒産件数、またもや過去最多に・・・

介護事業の倒産件数が(また)過去最多に

2019年上半期における介護事業の倒産件数が、またもや過去最多(介護保険法が施行された2000年以降)を更新しました。まずは以下、東京商工リサーチの記事(2019年7月4日)より、一部引用します。

2019年上半期(1-6月)の「老人福祉・介護事業」倒産は、55件だった。年上半期では2018年同期から2年連続で前年同期を上回り、介護保険法が施行された2000年以降では、年上半期で最多を記録した。

なかでも、ヘルパー不足が深刻な訪問介護事業者の倒産が急増した。この状況で推移すると、2000年以降で年間最多の2017年(111件)を上回る可能性が出てきた。(中略)資本金1千万円未満(個人企業他を含む)が約9割(同87.2%)、従業員10名未満が8割(同80.0%)、設立5年以内が3割(同30.9%)と、過小資本で小・零細の事業者の淘汰が加速している。

2018年度の介護報酬改定で、「質が高く、効率的な介護の提供体制の整備推進」を目指すが、むしろ規模による差別化が目立つ。待ったなしの高齢化社会を迎え、「老人福祉・介護事業」は市場拡大が見込まれる一方、資金力や人材、ノウハウなどの優劣で淘汰が加速している。(後略)

人手不足の原因はストレスではない

介護業界が深刻な人手不足に見舞われていることは、もはや社会の常識になりつつあります。背景として様々な理由が語られていますが、KAIGO LABとしては一貫して、介護業界の待遇の悪さ(待遇の業界ランキングで最下位かそれに近い)を真の原因として考えてきました。

そうした中でも過去記事『介護職のなり手がいない真の原因は、ストレスではない。』(2016年3月15日)と『介護職は、ストライキを(実質的に)起こせない。社会がそれに甘えている。』(2016年02月12日)の2本は、特に読者数の多い記事です。

「質が高く、効率的な介護の提供体制の整備推進」のためには、人手不足の解消が必要です。そのためには、様々な施策の前提として、介護職(介護のプロ)の待遇改善が必要です。公費で運営されている介護業界における待遇改善には、人件費に使われることを前提とした、より大きな加算が求められます。

介護事業の大規模化は簡単ではない

他の業界であれば、特定の企業が債務超過となり、倒産が危ぶまれる状況になれば、どこか他の企業が買収する(M&A)といったことが起こります。そうした競争と淘汰を通して、大規模化と効率化(業界再編)が進んでいきます。しかし介護業界では、そうした買収が選択されず、ただ倒産するということがよく発生します。

こうして過去最高の倒産件数を記録し、ただ、介護事業者が消えていくのは、国全体のことを考えると「もったいない」ことなのです。せっかくの人材と顧客が、そこで一度失われてしまうと、続く業界再編が遅れてしまうからです。

この背景になっている本当の原因は不明です。しかし、介護業界の経営者と話をしていると、そうして倒産の危険にさらされた経営者は「もう、介護業界で経営したくない」という気持ちになることも多いようです。そこに買収を持ちかけられても、介護事業を続けたくない場合は、買収に応じないでしょう。

介護業界の高齢化も進んでいる

そもそも、多くの介護は在宅で行われる在宅介護です。そんな在宅介護における訪問介護の担い手であるヘルパーの平均年齢は53.3歳で、60歳以上のヘルパーも全体の37%を占めているのです(2016年度の実態調査)。

介護大手の企業は、そのほとんどが、老人ホームと呼ばれる施設介護(およびデイサービス)を事業の中心にしています。こうした施設介護では、介護職がチームで1人の高齢者を介護するため、未経験からでも仕事を始めやすいという特徴があります。

これに対して訪問介護は、基本的にヘルパーが1人で複数人の介護を行うため、調理も含めた介護の全てに専門性を持っています。そうした担い手の育成には相当な時間がかかるため、なかなか、人材の確保ができないのです。

買収されることなく、そのまま倒産していく介護事業者があるということは、それだけ、介護業界を理解している経営者が減るということかもしれません。そして、それをきっかけとして、熟練の在宅介護の担い手であるヘルパーの引退までもが起こっていると考えるのは、心配しすぎでしょうか。

※参考文献
・東京商工リサーチ, 『2019年上半期「老人福祉・介護事業」の倒産状況』, 2019年7月4日

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