KAIGOLABの最新情報をお届けします。
自動車メーカー、電力、家電メーカー、金融など、業界の垣根を超えたリストラが始まっています。GDPは成長しているのに、企業はその先の大型の不況を見越して、生産性の向上を進めているからです。こうしたリストラは現時点で発表されているところにとどまらず、時間をかけて、極限まで進むと考えられます。
生産性の向上というのは、従業員1人あたりの利益を高めることで実現されます。本来であれば、個々の従業員がより付加価値の高い仕事をすることで実現されるべきところですが、これまで、そこそこの仕事しかできていなかった従業員が、いきなりそうした高い付加価値を叩き出すことは難しいでしょう。
そうなると、経営者としては、企業の売上を減らさないで、従業員の数を減らすということで、生産性を高めようとします。人工知能に代表される自動化技術は、そうして、従業員から仕事を奪っていくことになります。ここは、産業革命以来の大きな社会構造の変化であるとも考えられています。
これまでのリストラと違うのは、現代のリストラは業界レベルで発生するという点でしょう。過去には、業績を悪化させた企業が、個別にリストラを進めることがありました。しかし現代のリストラは、その業界全体で通用する業務効率化システムなどが登場することで、業界単位で発生するのです。
そうなると、リストラされてしまった人材は、同じ仕事で、同業他社に転職するということが難しくなります。とはいえ、業界を超えて転職するには、未経験者を歓迎してくれるような業界でもない限り、難しいことが普通です。そうした中、介護業界だけが、業界レベルで未経験者を歓迎しています。
介護の仕事は、自動化できるところが少なく、基本的に人手に大きく依存する仕事です。もちろん、介護業界にも効率化は必要ですが、介護を必要とする高齢者1人あたりに配置されるべき人員数が(実質的に)決められている業界ですから、効率化にも限界があります。
損保ジャパンが、損保事業4000人を、介護事業に配置転換させるというニュースは、この流れを受けてのものであると考えられます。これは、配置転換される側からすれば大変な問題ではありますが、失業期間をゼロにすることができて、再就職の手間がかからないという点では、利点もあるでしょう。
損保ジャパン全体としても、4000人全員が配置転換を受け入れないにせよ、採用費を節約できることは大きな利点です。採用費は、だいたい、年収の30%程度はかかります。1人あたり100万円かかるとすれば、4000人の配置転換は、40億円の節約になります。
繰り返しになりますが、配置転換される側としては、心情的にも苦しく、受け入れ難いことでしょう。ただ、こうしたリストラは、社会構造の変化によるものであって、本人のパフォーマンスの問題ではないことはもちろん、企業単位での話ではないという部分からも、社会環境を考える必要もあります。
リストラや配置転換されるとはいえ、介護業界での仕事に、以前と同じ給与が支払われるのであれば、少しは受け入れやすくなるはずです。介護の仕事は、一般のイメージとは異なり、やりがいのある仕事です。ただそこには、やりがい搾取としか言えない構造があることは、今後(さらに)大きな問題になっていくはずです。
介護業界に、他の業界を経験した人材が多数入ってくれば、介護業界の待遇の悪さを実感する人が増えます。住宅ローンなどを抱えている人材の場合は、この待遇では生活できないということもあり、圧力は強くなります。これは介護業界全体として、待遇の改善を(より強く)国政に訴えていくときの力となるでしょう。
介護業界は、日本に残された数少ない成長産業であり、未経験者を歓迎する(ほぼ)唯一の業界でもあります。また、輸出産業としての発展が期待される業界ですから、別の業界から海外経験が豊富な人材が参入してくることは、大歓迎でしょう。残されている待遇問題の解決さえできれば、ここには十分な希望もあります。
※参考文献
・NEWSポストセブン, 『上場企業の早期退職者募集 今年は1万人規模になる可能性も』, 2019年7月12日
KAIGOLABの最新情報をお届けします。