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元気な高齢者を、介護の担い手にするという流れ

元気な高齢者を、介護の担い手にするという流れ

介護福祉士の専門性を有効活用するために

介護には、まず、身体介護における3大介護と呼ばれる食事介助、排泄介助、入浴介助があります。ここには、一般に信じられている以上の専門性があり、それぞれに簡単な仕事ではありません。実際には、介護福祉士には、さらに高度なことが要求されています

しかし、こうした3大介護や、それよりもさらに高度な介護に関わるべき介護福祉士は、実際には、その他の雑務に追われていたりもします。背景にあるのは、絶望的なまでの人手不足です。また、介護の専門性が軽んじられているといったことも、心理的な背景として、存在している可能性もあります。

そうした雑務の代表は、現場を清潔な状態に保つための作業(掃除、配膳、食器洗い、ベットメークなど)です。雑務というと語弊もありますが、ヘルスケアの分野においては、清潔さの重要性は強調してもしきれないほどです。ただ、こうした作業は、なにも、介護の専門性の高い介護福祉士がやる必要はないでしょう。

当然のことですが、厚生労働省は、介護には専門性が必要であり、その中でも特に介護福祉士は、社会的な資源として正しく活用されるべきという認識を持っています。そうした認識から、今、厚生労働省は、介護福祉士でなくてもやれる専門性の低い仕事を、介護経験の少ない介護助手にしてもらうという方策を進めようとしています。

厚生労働省の施策が動き始めている

厚生労働省は、この介護助手のなり手を、元気な高齢者の中から見つけ出そうという取り組みの支援を決めています。働きたい高齢者は多いですし、仕事をしていると要介護になる可能性も減らせるので、一石二鳥です。以下、日本経済新聞の記事(2019年7月3日)より、一部引用します。

厚生労働省は元気な高齢者の介護への参加を後押しする。ベッドメークなど補助的な仕事をする「助手」として高齢者を活用する自治体に交付金を出す。介護福祉士といった資格を持つ職員が専門的な業務に集中できるようにし、深刻な人手不足の対策につなげる。(中略)

厚労省はこうした取り組みを「介護インセンティブ交付金」を配る対象に加える。高齢者の自立支援などに積極的な自治体が対象の交付金で、19年度の交付は200億円だった。20年度は400億円へ倍増をめざす。(後略)

それなりに大きな交付金が付いているところがポイントでしょう。ただの掛け声ではなく、この交付金があることで、実際に物事が動きます。その動きに、どれほどの効果があるかどうかは(まだ)わかりません。ただ、人手不足の介護現場に、少しでも人手が入ってくることは良いことでしょう。

介護を理解する高齢者が増えるということ

大多数の人は、介護を知りません。それは、ほとんどの人が、介護をしたことも、されたこともないのですから、当然のことでしょう。ただ、今後の社会では、これまでとは比較にならない規模で、多くの人が介護に巻き込まれることになるから、大問題なのです。

当たり前のことですが、知らないことを上手にこなすことができる人間はいません。なので、日本が大介護時代に突入してしまう2025年よりも前に、日本全体の介護に関する知識の底上げをする必要があるわけです。

意外と忘れられがちなのですが、高齢者であれば、介護を知っているわけではありません。高齢者の多くは、介護を不安に思ってはいても、実際の介護が始まるまでは、積極的に介護の勉強をしたりはしません。年齢によらず、今必要のないことを勉強できる人は少ないのです。

今回の厚生労働省の試みは、この側面でも意味がありそうです。知識がない状態でも、介護現場の雑務をこなしてもらうだけで、介護福祉士は助かります。そうして介護現場での経験が増していけば、介護助手として働いている高齢者の中に、介護の知識が少しずつ積み上がって行くでしょう。これは小さくない希望です。

※参考文献
・日本経済新聞, 『元気な高齢者、介護の助手に 厚労省が自治体を支援』, 2019年7月3日

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