閉じる

「屋根のない特養」としての地域包括ケアシステム

「屋根のない特養」としての地域包括ケアシステム

在宅介護はこの国の行方を決める

老人ホームは、そもそも一時入居金の数千万と月額25万円と行ったレベルで費用がかかります。より安価な特別養護老人ホームは、全国で30万人以上が入居待ちとなっており、要介護度が高くないと入居できないといった事情があるため、なかなか利用できません。

そうなると、介護が必要となった要介護者の介護は、その多くが、在宅で行われることになります。この在宅介護を支える仕組みの構築に失敗した場合、日本が傾く可能性があります。在宅介護への対応は、国難と言ってよいほど、重要な課題なのです。

この在宅介護を支える仕組みには、地域包括支援システムという名前が与えられてはいます。しかし、その具体的な形は、まだまだ見えていません。そうした中、東京大学特任教授の辻哲夫先生は「屋根のない特養」という表現(週刊エコノミスト, 2019年)によって、目指すべき形を提唱されています。

屋根のない特養

本当は特養に入居させたいという家族の本音は、介護をこれ以上自宅で行うことに疲れており、介護を手放すことで、自分たちの人生を取り戻したいというところにあるでしょう。特養が目的ではなく、介護の負担から解放され、自分の人生に向き合うことが目的のはずです。

その目的を、特養ではなく在宅で達成するため「屋根のない特養」を実現ということが、地域包括ケアシステムの存在意義だと考えれば、とても腹落ち感があります。要介護者を支える家族の側のQOLを測定し、介護によって、そのQOLが下がらないようにすることが大事です。

これを実現するには、どうしても、ITによる高度なインフラの構築が必要になってきます。この点について、この「屋根のない特養」という言葉を作った辻哲夫先生は、次のように述べています。

ICT(情報通信技術)の共通インフラを整え、どの家にも支援ロボットを入れて24時間の地域ケア体制を構築する。介護機器は需要が増えれば価格が下がり、普及する。高齢化先進国として輸出もできる。

街の再設計も欠かせない。人口減少で無秩序に市街地に人を集中させるのではなく、若い人の住めるアパートを整備しながら郊外の団地も守る。時速10キロのモビリティーで子育て中の母親も高齢者も安心して移動できる「ケアコンパクトシティー」をつくる。

投資規模が重要になってくる

「屋根のない特養」は、特養を目指すのではなく、あくまでも、家族が介護の負担から解放され、自分の人生に向き合うことができるようになることが目的です。その目的を達成するためには、辻哲夫先生のコメントにもある通り、街そのものの再設計が求められるでしょう。

ただ、このストーリーは規模が大きいため、それに見合った巨額の投資が必要になります。ここの投資をケチると、家族が介護の負担から解放されるというところが不十分なものになり、そうした不十分なシステムは輸出できたりしないというところが、難しい点でしょう。

今の日本政府に、それだけの覚悟があるかどうか、その答えは、遠くない将来において明らかになることでしょう。地域包括ケアシステムが、名前だけで中身のないものになるか、それとも、将来の日本を支えるものとして歴史に名を残すような成功事例となるかどうかが、決まろうとしています。

※参考文献
・週刊エコノミスト, 『11兆円市場 介護の勝者』, 2019年6月4日

KAIGOLABの最新情報をお届けします。

この記事についてのタグリスト

ビジネスパーソンが介護離職をしてはいけないこれだけの理由