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介護、医療、年金の破綻は止められるのか?正常性バイアスを超えて

介護の破綻

私たちの「手取り」はどうなっているのか

普通に仕事をしている人の「手取り」は、大雑把に言えば「給与ー税金ー社会保険料」と計算することが可能です。なんとなく「税金;所得税、消費税、住民税など」ばかりが悪者にされがちですが、「社会保険料;介護、医療、年金など」の部分も、かなりの負担になってきています。

ここで「社会保険料」の考え方として理解しておかないとならないのが、賦課方式(ふかほうしき)です。基本的に、年金、医療、介護というのは、高齢者が生きていくために必要になるお金です。賦課方式は、この高齢者のためのお金を、現役世代が代わりに負担するという方式です。もちろん医療は現役世代も利用しますが、マクロには高齢者ほどではありません。

つまり、若者を含めた現役世代の「給与」からは、同時期の高齢者が生きて行くためのお金が差し引かれているということです。とはいえ、今の現役世代は、今の高齢者たちが過去に築き上げてきた社会インフラのおかげで生きていますから、この考え方自体は、大きく間違っているわけではありません。

なぜ介護、医療、年金が破綻しようとしているのか

ただ、現代は少子高齢化の時代です。より少ない現役世代で、より多くの高齢者を支えなければならないということです。その流れは、時間とともに厳しくなっているのです。

このまま行くと、2025年には、現役世代2人で高齢者1人を支えなければならなくなります。「社会保険料」の上昇は、よく騒がれる消費税率の上昇よりも、もっとずっと深刻です。消費税増税に反対するのもよいですが、本丸はむしろ「社会保険料」のありかたなのです。

これが2050年になると、ついに現役世代1人で高齢者1人を支えるということになります。ここに至ると「給与」から差し引かれる「社会保険料」のほうがずっと大きくなり「手取り」は極端に減ります。

どれくらい極端かというと、2050年では「給与」の80%程度が「社会保険料」のために差し引かれるという試算があります。そうなると「手取り」は「給与」の20%ということになるわけです。月給30万円の人の「手取り」が6万円ということですね。ゾッとしませんか?

もちろん、そんなことになるずっと前に、この賦課方式を前提とした年金、医療や介護の仕組みは破綻します。破綻という言葉の定義は難しいので、別の言い方をするなら、年金はもちろん、様々な社会保障の全てが、極端に減額されます。

ですから、今の介護制度の形も、絶対に維持できません。このまま放置しておけば、高齢者のほとんどが貧困化し、現役世代の多くも少ない「手取り」で生きることを強いられる貧困層に落ちます。

介護職員の給与は低すぎますが・・・

KAIGO LABでも何度も主張してきましたが、介護職員の給与は低すぎます。だからということで「社会保険料」を上げて、そこから介護職員の給与補填を行ったとしましょう。そうなると、結局、今の介護制度自体の破綻が早まります。そして同じことが、医療でも起こってきています。

病院や介護施設の多くは「社会保険料」によるカバー率が減らされ続けるので、維持できなくなっていくでしょう。なんとか経営を維持しようとして、病院や介護施設の経営者による不正も増えていくでしょう。

入院できる病院、入所できる介護施設も減っていき、全てが在宅で行われる方向に向かっていきます。今、介護施設に入所できている要介護者も、少なからぬ人が、出所を余儀なくされる日が来ます。今のままでは、全てがうまく回らないのです。それがわかっているのに、もはやあきらめムードすら漂いはじめています。

正常性バイアスから抜け出さないといけない

大雨で増水した川を見に行って、亡くなってしまう方がいます。先の大震災でも、逃げないままに、ご自宅で亡くなった方もいます。自分に危険が迫っていても「まさか自分が」と考える傾向が、人間には備わっています。この傾向を特に「正常性バイアス」と言います。

日本の年金、医療、介護は、破綻の危機にあります。それは、全ての日本人に関係している大きな危険です。私たちは、なんとか「正常性バイアス」から抜け出し、国民レベルでの議論をして、賦課方式とは異なる「社会保険料」の財源を確保しなければならないのです。

これまでと同じやり方を続ければ、2075年には、なんと「手取り」がマイナスになるという試算があります。つまり、働いたら「給与」がもらえるどころか、働いている人がお金を支払わないといけない社会になるということです。もちろん、そんな社会はやってきません。

消費税増税に反対ですか?それはそれでよいでしょう。では「社会保険料」も含めた、日本の社会福祉はどうするのでしょう。どうすればよいのでしょう。そうした議論をしないといけないし、それができなければ、ハードランディングが待っています。

※参考文献
・橋本英樹, 『財政破綻は医療を破綻させるか?』, 東京大学金融教育研究センター, 2013年9月27日
・池田信夫, 『なぜアベノミクスで不況になったのか』, 2015年11月19日
・白石浩介, 『医療財政の破綻』, 三菱総研倶楽部, 2006年3月(vol.3)

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