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性を通じて人の権利や尊厳を考える

性を通じて人の権利や尊厳を考える

性を通じて人権や尊厳を問う

オランダでは、障害者の方に対する性サービスに自治体などから助成金や保険適用があると聞いたら驚かれるでしょうか。今、人権やダイバーシティという理念のもと、この性に対する認識や取り組みに変化が訪れています。

介護の現場では性というと、介護職員が利用者やその家族からセクシャルハラスメントなどの被害に遭うという話題が多いです。入浴や排泄など人の裸体を見たり触れたりする仕事ですし、また心身共に困窮する中で、性への衝動や性への憧れを抱く人も少なくありません。

こうした人間の根源的欲求の一つである、性に向き合わなければならないのが介護福祉の現場の一側面なのです。とはいえ、こうした話題は日本ではタブー視されています。そうした中で、この“性”の課題を通じて人の人権や尊厳をオープンに考えていこうという動きがにわかに広がってきています。

私は、先日東京都内で開催された介護のイベントで、この高齢者、障害者の性を語り合う場に参加してきました。全体のほんの一部にはなりますが、今回は、そこで交わされた様子をお伝えしたいと思います。

性産業と福祉

当日の登壇されたのは、障害者、高齢者専門デリヘルはんどめいど倶楽部代表の大和祥吾さんでした。「アンダーグランドな文化にもノーマライゼーションを」と題して、ご自身が経営されている障害者・高齢者専門の性風俗業における理念や現場の実際、利用客の背景などについて語ってくださいました。

冒頭のオランダの話題は性を人の人権や尊厳における大切な要素の一つと捉えています。たとえ障害があっても高齢であっても、それらを理由に健常者は享受できる性ニーズを満たせない方々に権利としてそれを支援するというものです。

ですからこれには福祉サービスとしての性格があります。日本にもこのような性を人の福祉ニーズと捉えて活動されている団体があります。一方で、大和さんの理念はこれとは異なります。風営法を遵守した性風俗事業として営業をされています。特徴的なのはその利用客を障害者、高齢者専門として謳っているということです。

その背景には、既存の風俗店を障害者が利用された時、サービスを提供する従業員から「あっ、障害者が来た」というなんともバツの悪い雰囲気を感じたという声があったそうです。利用客は一種の差別的雰囲気を感じたのでしょう。

個人の尊厳を侵害するような不名誉や屈辱をスティグマと言いますが、そうしたものがこうした場でも存在しているのです。本来であれば、障害者であっても既存の風俗店を利用できることが本来のノーマライゼーションのはずです。

しかし、社会の側が障害者や高齢者の性を権利として認めていこうと変わるのを待っていては遅すぎるということで、福祉としての制度や権利ではなく、市場ニーズに対するビジネスとして展開したということですね。

現場の実態について

少し前までは10代のキャスト(性サービスに従事する女性)から50代の方までいらっしゃるそうです。意外に市場規模が小さいとのことで、キャストさんは既存店との掛け持ちもいらっしゃるそうです。

様々な背景や事情、想いを持ってこの仕事をされている方がいらっしゃるようですが、この点に関しては別領域の論点になるので本記事では割愛します。競合が少ない分ニーズは広く、遠く関西まで出張に行った実績もあるそうです。

一方で、東北地方の高齢者から出張の依頼があった際は、往復の出張交通費などがかかる旨を伝えると、高額すぎて断念されたそうです。こうした事業に対する地域差、需給バランスの偏りを感じると言います。

また、一定条件の下、キャストの方と障害者の利用客がカップルになり、ご結婚されることもあるそうです。そうした既存店とは異なる発想や取り組みもされているとのことでした。他にも、ごくわずかですが、女性の利用客の相談もあったりするとのお話でした。

会場内との意見交換について

現場の実際を聞いた後、参加されていたおよそ100人程と方々と意見交換が行われました。例えば、市場ニーズとの需給バランスの偏りについて「お金がある人はそうしたサービスを利用できるが、お金がない人は利用できない・・・こうしたことは性を人の権利や尊厳の一つと考える場合いかがなものか」という意見が出ました。

そう、健常者でも障害者でもそうした性サービスの利用に関しては、お金の有無でそれを享受できるかについては平等です。しかし、健常者では日常生活として行える自慰行為も、四肢に障害がある方などは行えていません。

つまり、性を市場ニーズと捉えるべきか、権利や尊厳と捉えるべきかという論点があるのです。大和氏は後者で捉えるべきと思いつつも、そうした社会の成熟は待てないので、前者で営業を行っているとの回答は先に述べたとおりです。

また、会場には東京大学の上野千鶴子教授も参加されており、会場から意見を述べられていました。性産業における利用客のニーズを「ロマンスとしてのニーズ」「女性を所有化したいというニーズ」「性処理としてのニーズ」として整理されていました。

そして、性のサービスを権利や尊厳と捉える場合、介護福祉現場の原則である「同性介助」に基づき、男性の性処理は男性介助者で行い、視覚聴覚においてはVRなどのテクノロジーを利用することも可能ではないか、といった男性視点の社会構造への疑問と意見を投げかけていらっしゃいました。

会場全体に対しては、例えば公費などを使った性サービスを認めるべきか否かという問いに対して、賛成、反対、わからない、条件付き賛成など多様な意見が出ました。条件付き賛成では、社会的合意が得られるならば賛成だが、福祉として性サービスを提供する介助者には選択の自由を担保することが条件、というものでした。

参加者自体がこうした話題に関心のある方々なので偏りがあることが前提ですが、性を通じて権利や尊厳を考える時間となりました。障害者や高齢者の性は難しいテーマですが、今後はより多くの人が高齢者になっていきます。そうした時に、性というものに対する権利や自由がいかにあるべきか、放っては置けないテーマです。

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