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すでに世界最高となっている日本の高齢化率は、2018年の27.7%から、2040年には35.5%まで上昇すると考えられています。こうして増えていく高齢者の中で、配偶者に先立たれたりしてひとり暮らしになる高齢者は、2040年には男性で20.8%(2015年には14.0%)、女性で24.5%(2015年には21.8%)にもなるそうです。
そうしたひとり暮らし高齢者、特に、配偶者との死別という辛い出来事を経験している高齢者をメイン(調査対象24名中22名が死別経験者)とした調査研究があります(船木, 宮嶋, 山本, 栗屋, 2019年)。今回は、この調査研究から、いくつか抜き出してみます。気になる方は、最後に示してある参考文献より原典をあたってください。
「こんなに大変なんだなって」「羽をもがれたような感じ」という具合に、高齢者たちの何人かは、これまでに経験したことのない深い寂しさを感じていました。こうした寂しさの結果として、夜眠れなくなってしまったり、暴飲暴食に走ってしまったり、趣味だったことをやめてしまったり、人によっては、しゃべれなくなったというケースもあったようです。また、毎日2人で行っていた思い出の場所にも行けなくなるといった変化がありました。
死別後、数年すると、少しずつではあっても辛い気持ちが和らいでくるようです。ただ、それも「うまくごまかしている」「紛らわすことはできた」という具合に、大切な配偶者を失った喪失感そのものが消えているのではなく、そうした喪失感との付き合い方がうまくなっているというのが実情のようです。そして、配偶者との別れは、誰もが経験することとして、配偶者の死を受容しているのでしょう。
畑仕事だったり、絵画だったり、漢字ドリルだったり、クロスワードパズルだったり、配偶者との死別を経験した高齢者の何名かは、自分なりに工夫をして、日々の楽しみを生み出していました。また、自分で工夫したわけではない人の場合は、仕事を続けていることが、救いになっているようです。配偶者を失った喪失感にとらわれてしまわないように、何か忙しくしていることが有効のようです。
テレビやラジオに頼ってばかりで、誰ともしゃべらないことに対する否定的な意見がありました。「何気ない話でも気持ちが楽になる」という意見があるように、ほんの少しのコミュニケーションであっても、それがあるのとないのとでは、かなりの差があることが指摘されています。もちろん、何気ない会話を超えて、誰かにお礼を言われたり、若い世代との交流があったりすれば、なお良いということです。
本当は、そうして誰かとおしゃべりをするためにも、なんらかの、人が集まる場に関わっていくことが大事なのです。しかし、この調査研究では、そうした人が集まる場から、ひとり暮らしの高齢者が距離を置いてしまうきっかけがあることを突き止めています。それは、他の年齢層でも同じことですが、いじめだったり、文句を言われたりと、人間関係のトラブルでした。また、自分自身が病気になってしまうということも、そうした人が集まる場から離れてしまう原因になっていました。
この調査研究からわかることは、配偶者に先立たれてしまった高齢者は、消えない喪失感と共に生きていることでした。ただ、時間とともに、それぞれが工夫をして、喪失感に包まれてしまわないように、気を紛らわす方法を獲得しているようでした。もちろん、こうした方法を見つけられず、深い悲しみの中で暮らしている高齢者もいることでしょう。
また、喪失感にとらわれてしまわないためにも、他者との何気ないおしゃべりが重要であることがわかりました。それは、趣味のサークルだったりすればより理想的ですが、ご近所との何気ない会話といったレベルでも、あるのとないのとでは大違いということでした。
しかしせっかく、人が集まる場に参加できていたとしても、人間関係のトラブルがあると、高齢者も、そうした場から距離を置いてしまうようです。ただ、人が集まる場というのは、ある意味で無数にあるわけですから、そうした新たな場に出ていくことができたら、この問題は小さくできるかもしれません。
※参考文献
・船木 祝, 宮嶋 俊一, 山本 武志, 粟屋 剛, 『個人と共同体の混合形態 : 一人暮らし高齢者の生活』, 北海道生命倫理研究 7, 19-35, 2019-03
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