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ひとり暮らし高齢者の孤独、研究者による現在地のまとめ

ひとり暮らし高齢者の孤独、研究者による現在地のまとめ

ひとり暮らし高齢者の孤独

孤独は、喫煙や肥満よりも健康に悪いと言われます。定量的には、社会的つながりが弱い高齢者は、要介護になったり死亡したりするリスクが、通常よりも約1.7倍高いということもわかっています。高齢者の孤独を減らすことは、介護の必要性を減らしたり、介護の重度化を避けるのに貢献するはずなのです。

では、日本の高齢者の孤独は、今、どのような状況なのでしょう。それについて、研究者が、自らの調査を振り返ってまとめた論文(河合, 2019年)があります。今回は、この論文から、いくつか重要と思われるところをピックアップしてご紹介します。より詳しく知りたい方は、下の参考文献より、原典をあたってください。

東京23区の高齢者の孤独死数(ひとり自宅で死亡した人の数)

東京23区の高齢者の孤独死数(ひとり自宅で死亡した人の数)は、2002年に1,364人であったものが、2015年に3,116人にまで増えています。これは、東京23区だけで、毎日10名近い高齢者が孤独死しているということを意味します。孤独死は、それ自体も問題ではありますが、それ以上に問題なのは、自宅で死んでもしばらく誰にも発見されないという、孤独な日常そのものでしょう。

港区におけるひとり暮らし高齢者の年収

東京都港区と言えば、富裕層が多く暮らしているところです。しかし、そんな港区でも、ひとり暮らし高齢者の3割は、生活保護基準以下(年間150万円未満)の年収しかありません。さらに、約半数は年間200万円未満となっています。富裕層が多く暮らしているところでも、ひとり暮らし高齢者は、経済的にギリギリの状態にあるという認識が必要です。経済的にギリギリだと、交遊費なども使えないため、身動きが取れないということもあるでしょう。

緊急時の支援者の有無

高熱で動けない時に、誰か助けてくれる人がいるかという質問に対して、誰もいない(支援者なし)と答えるひとり暮らしの高齢者は、1995年の調査から、1.5割程度で推移しているとのことです。この調査の研究者は「この値は少なく見積もったものである」と指摘していますが、そもそも、ひとり暮らし高齢者の数そのものが増えているので、割合にそれほど変化はなくても、人数的には増えているという認識が必要でしょう。

正月三が日を「ひとりで過ごした」という高齢者の割合

正月三が日を「ひとりで過ごした」という高齢者の割合は、33.4%(2011年調査結果)でした。家族や友人と過ごした高齢者の方が全体としては多いその影で、3割以上のひとり暮らし高齢者が、正月三が日でさえ、孤立していることが「明らかになっているわけです。この時期は、テレビなどでも、家族と過ごしていることを前提とした番組が放送されることも多く、普段よりもいっそう、自分が孤独であることを認識しやすいかもしれません。

近所づきあいのあるなし

「挨拶を交わす程度」「つきあいがない」の2つの合計は、2011年の調査では39.4%となっています。約4割のひとり暮らし高齢者が、近所づきあいを(ほぼ)持っていないことがわかります。過半数のひとり暮らし高齢者は、ご近所とうまくやっているので、この約4割というところが見えにくくなっているかもしれません。しかし、近所づきあいさえなく、ひとり暮らしをしているとなると、誰とも話をしない日というものが日常になっている可能性があります。

介護を必要としていない高齢者であっても・・・

介護を必要とする高齢者は、全国平均で18.3%です(2019年3月)です。これは、逆さに見れば、介護を必要としていない高齢者が8割以上と読むことができます。しかし、そうした介護を必要としない高齢者の中には、ひとり暮らし高齢者がいて、そうしたひとり暮らし高齢者は年々増えているのです。

1980年には、ひとり暮らし高齢者の割合は、男性4.3%、女性11.2%でした。これが2010年には、男性11.1%、女性20.3%まで増加しています。そして2025年には、男性14.6%、女性22.6%となると予想されています。こうした高齢者の多くは、介護を必要としていない状態です。

介護を必要とすれば、ヘルパーやデイサービスの職員など、多くの人と関わるようにもなります。介護を必要とするのは、決して良いことではありませんが、こと孤独という切り口からは、ただ自宅でひとりでいるよりもずっと良いと感じる高齢者もいるかもしれません。

介護ばかりを考えていると忘れてしまうこともありますが、介護を必要としない高齢者の中には、孤独に苦しんでいる高齢者も多数いると考えられます。そして本来であれば、介護の必要性の有無という視点だけでなく、孤独という視点からも、高齢者のケアは必要になるはずです。

※参考文献
・河合 克義, 『高齢者の貧困と社会的孤立─孤立している隣人の現実─』, 明治学院大学教養教育センター付属研究所年報 : synthesis = The annual report of the MGU Institute for Liberal Arts (2018), 60-63, 2019-03-31

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