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印鑑を勝手に作成することによる不正・・・氷山の一角ではないことを祈りたい

印鑑を勝手に作成することによる不正・・・氷山の一角ではないことを祈りたい

印鑑が勝手に作成されていた

先週、社会福祉協議会職員に所属するケアマネジャーが、介護サービスを必要とする要介護者116人分の印鑑を勝手に作成していたということがニュース(朝日新聞, 2019年5月23日など)になりました。本人や家族の同意が必要な介護の計画(ケアプラン)を、そうした同意なしに作成していたと考えられています。

まずは、これは犯罪であり、認めることはできないということからです。ただ、その背景には、あくまでも推測ですが、増え続ける要介護者に対して、なかなか増えない人員数という板挟があったのだと思います。もちろん、これから明らかになる背景として、要介護者の資産を狙っていたと言ったことであれば、助け舟は出せませんが。

今回の件でも、要介護者の中には、認知症に苦しんでいる人が多数含まれているでしょう。そうした方の中には、家族と別居していたり、家族と連絡がつかない要介護者もいると考えられます。そなると、ケアマネージャーは、認知症の本人と、介護の計画について意思疎通をし、同意を得ないとならないということになります。

認知症に苦しんでいる人も大変ですが、そうした方と正しく意思疎通を行い、同意をもらうという仕事も大変です。限られた人員数で、こうした業務をこなそうとすれば、実質的に合意が得られず、本人が生きるために必要な介護サービスが受けられないということにもなりかねません。

独居で認知症に苦しむ人との合意をどうするのか

第一生命経済研究所の試算では、認知症に苦しむ人が保有している金融資産は(2017年度末時点で)143兆円にもなるそうです。2030年には、これが200兆円を突破するとも考えられています。この巨額な金融資産が実質的に凍結されてしまえば、日本の経済もおかしくなってしまいます。

認知症に苦しむ人も、お金を使って、モノやサービスを購入しないと生きていけないのです。しかし認知症によって、本人が本当に望んでいる判断ができなくなっている可能性も高いところが難しいのです。実際に、認知症になり、お金の管理ができないことが理由で、適切な医療や介護が受けられないケースも増えていると聞きます。

今回のケアマネージャーの対応は問題があり、そこについては議論できません。しかし、現実として、認知症に苦しんでいる人の意思決定における合意形成は、社会問題です。ケアマネージャーたちは、そうした社会問題が放置されていることの影響を受けており、苦しんでいるという部分にも目を向ける必要があるでしょう。

そうなると、どうしても気になるのは、今回のケアマネージャーによる印鑑の不正作成と不正利用は、今回発覚したケアマネージャーだけの話なのかというところです。もしかしたら、同様な背景から、似たようなケースが日本全国で見つかる可能性もあります。

とりあえず家族はケアプランの確認が必要

とりあえず家族としては、ケアマネージャーが作成しているケアプランを確認する必要があるでしょう。そこで、家族として聞かされていない不審なケアプランに印鑑が押されている場合、その印鑑が本物であるかどうかも調べる必要がありそうです。

ケアプランの中身が、要介護者本人のためになるような内容であれば、場合にもよりますが、今後は印鑑を勝手に押さないで欲しいという着地もありえます。しかし、不必要なサービスが詰め込まれていたりした場合は、悪質ということにもなりそうです。

この問題が、どれほどの規模で日本に広がっているのか、まずは国による調査が必要になるでしょう。もし、実態として、多数のケアマネージャーが同じことをしていた場合、ただ罰するのではなく、それは認知症に苦しんでいる人の意思決定における合意形成という社会問題として、しっかりと議論することが必要です。

大介護時代にも関わらず、介護のためのお金も人材も大きく不足しています。このひずみを現場に押し付けるのではなく、社会問題として広く捉えて、国の社会福祉の構造改革によって対応する必要があります。本当に難しい問題ですが、成り行きに任せてしまうと、私たち自身の老後が恐ろしいことになってしまうでしょう。

※参考文献
・朝日新聞, 『社協ケアマネ、介護利用者の印鑑を無断作成 不正使用も』, 2019年5月23日
・朝日新聞, 『親が認知症で口座凍結? 焦って銀行へ「ドキドキした」』, 2019年3月14日

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