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解雇規制の終わりと介護業界(大解雇時代と大介護時代)

解雇規制の終わりと介護業界(大解雇時代と大介護時代)

解雇規制とはなにか

解雇規制(かいこきせい)とは、会社(雇用主)が雇っている労働者を、特段の制限なく解雇することを禁止する規制(法律)です。この規制があれば、労働者は、勤務態度が極端に悪いとか、犯罪を犯すといった正当な理由がなければ、実質的に、定年までその会社に勤務すること(終身雇用)が保証されます。

解雇規制がなければ失業してしまう可能性の高い労働者も、解雇規制のある国では、企業に雇われ続けることになります。これは結果として、低い失業率と失業手当の給付の抑制につながるのは明白でしょう。これまで強い解雇規制を持ってきた日本では、企業が、社会福祉の肩代わりをしてきたと言えるのです。

ただ、こうした解雇規制の存在によって、企業側は「一度採用したら解雇できない」という大きなリスクを背負います。結果として、採用数が本当に必要な人員数以下にしぼられ、労働者1人あたりの労働時間が長時間化することにもなってしまいます。

企業は、採用数を低く抑えますから、転職者の受け入れも実際に必要な人数よりも少なくなります。そうなると、新卒時の一括採用で入社できなかった企業への転職は極端に難しくなります。解雇規制は労働者を失業から守りながらも、労働者の転職の機会を奪うという両面性があるわけです。

また、こうした厳しすぎる解雇規制の存在から、実質的に解雇することが可能になっている非正規労働者が増えてしまったという事実は、とても重要です。現在は、労働者の約4割が、解雇規制で守られない非正規労働者として、日々、仕事をしています。

解雇規制の緩和が近づいている

かなり以前から、日本の生産性の低さの原因の一つとして、解雇規制の存在が槍玉に上がってきました。しかし、解雇される労働者のセーフティーネットが整備されないままに解雇規制だけが緩和されてしまうと、労働者が不利になることは明らかです。

ただ、いよいよ、解雇規制の緩和に向けて、セーフティーネットの問題は棚上げされたまま、政治と経済の足並みがそろってきました。かなりの時間をかけて合意形成がなされてきたこともあり、今度の波は、本当の社会変革(良くも悪くも)につながる可能性があります。

最近では、経済団体連合会(経団連)の会長と、日本自動車工業会の会長(トヨタ社長)が相次いで「終身雇用をこれ以上維持するのは無理」という趣旨の発言をメディアに対して行い、話題になりました。終身雇用が無理という言い方で、それが解雇規制の緩和を意味することを濁しています。

すでに2016年10月には、自民党の小泉進次郎農林部会長がトップの「2020年以降の経済財政構想小委員会」において、非正規労働者の権利を守るという文脈から、解雇規制の緩和が提言されています。

最近のニュースの出方は、2020年の解雇規制の緩和を目標とした、政治と経済の間で根回しの進捗がかなりあるということを示しているように感じられます。これは、非正規労働者を正社員にするのではなく、正社員の権利を、非正規労働者と変わらないものにするという方向での社会改革になります。

セーフティーネットの整備は間に合うのか?

本来であれば、正社員として働いている労働者と非正規労働者の差別をなくし、どちらも同様に守られるという形が理想です。しかし、日本の企業には、その体力が失われている(そして株主の力が大きくなっている)という現実を考えれば、増えすぎた非正規労働者の数と合わせて、それはもう無理な話になっています。

であれば、解雇規制の緩和によって解雇されることになる労働者が、その後、路頭に迷わないようにするセーフティーネットが、どうしても必要になるはずです。しかし、そんなセーフティーネットを持たない非正規労働者が全体の約4割にもなっているいま、それも、理屈としては差別となってしまいます。

解雇規制の緩和は、政治と経済のみならず、ずっと不公平な環境に押し込まれてきた約4割の非正規労働者からすれば「自分たちには関係ないし、むしろ、転職枠が増えることになるので好都合」ということになってしまうのです。

セーフティーネットの整備は、そもそも、解雇規制により、そうしたセーフィティーネットを提供してきた企業が「もう無理」と言っていることです。それを今度は国に求めるということは、国の社会福祉財源が、ここに使われるということです。

しかし、少子高齢化によって、社会福祉財源は、今でさえもう限界に近い状態になっています。もし仮に社会福祉財源が潤沢であるなら、まずは介護業界の待遇改善がなされるべきですが、そうなっていません。解雇規制の緩和にともなう十分なセーフティーネットの準備は、実質的に不可能になるはずです。

大解雇時代と大介護時代の到来が意味すること

運命なのかもしれませんが、解雇(かいこ)と介護(かいご)という言葉は、とてもよく似ています。言葉の類似は冗談としても、今後の日本では、この両方が、人数として急速に大きくなっていくということは、大事な事実として似ています。

そして、解雇されると求職をする失業者になるのと、介護業界が圧倒的な人材不足になっていくことの親和性も高いという部分には、可能性も感じます。もちろん、そうそう簡単に人材不足は埋まりませんし、不足しているのは単純な人数ではなく社会福祉の理念と専門性を備えた人材です。

ただ、解雇規制が緩和されて解雇される人というのは、決して、能力的な問題を抱えているということではなかったりします。年齢と賃金が合わないということもありますが、何よりも、その人が配属されている部署の業績が悪く、部署ごと解雇されるといったことが多くなると予想されるのです。

そうして解雇される人の中には、親の介護経験などから、介護業界に興味を持つ人も出てくるはずです。基礎能力も高く、介護に興味も持っている人材が大量に人材市場に出てくる可能性は否定できないのです。

ある意味で、介護業界の存在は、解雇規制の緩和におけるセーフティーネットとしての役割(それと意図されてはいなくても)として機能するかもしれません。本当の未来がどうなるかはわからないものの、少なくとも「終身雇用をこれ以上維持するのは無理」というのは事実なのでしょう。

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