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介護業界の生産性向上、基本的なところで間違っていないといいけれど・・・

介護業界の生産性向上、基本的なところで間違わないでもらいたいが・・・

介護業界の人手不足は尋常ではない

介護業界の人手不足は、尋常ではありません。増え続ける要介護者に対して、どうしても、介護人材が足りないからです。その理由は待遇の悪さにあるのですが、国が財政難を抱えている今、短期間のうちに待遇を大幅に改善させることは望めそうもありません。

そうなると、少ない人数でも、より多くの要介護者を介護できるようにすること、すなわち生産性の向上が具体的な対策となります。これに成功すれば、より少ない人数で、より多くの介護報酬が得られることになりますから、介護業界の待遇改善にも繋げられる可能性が高まります。

国としても、この方向を進めたいのは当然で、自民党の小泉進次郎厚生労働部会長が、介護業界の生産性向上に関するワーキング・グループを立ち上げたことがニュースになっていました(産経ニュース, 2019年4月15日)。

このワーキング・グループが、大きな成果を上げてくれることを祈ります。同時に怖いのは、タブレット端末を配って、ちょっとしたペーパーレス化のために、たくさんのお金が使われるような状況が出現してしまうことです。この場合、タブレットを販売する業者が儲かるだけです。

これを避けるには、生産性向上の仕事を、なんどもやったことがあり、その仕事に精通しているプロが、このワーキング・グループに入ることです。その上で、そうしたプロの意見がしっかりと通るような調整を、周囲の人々が行っていくことが大切になります。

生産性向上の基本的な考えかた

生産性向上については、少なからぬケースで、基本的なところでの間違いがあります。最も大きな間違いとされるのは、今の業務を、ITに置き換えようとすることです。よく、基幹業務システムの刷新プロジェクトなどで裁判になっていますが、その背景にも、同じ間違いが指摘されることが多いのです。

まず、業務というのは、時間とともに複雑化することが知られています。はじめはシンプルな業務だったのが、様々な業務上の課題に対応するうちに、自然と複雑化してしまうのです。気づいたときには、まるでピタゴラスイッチのような業務になっているのが普通なのです。

このとき、ピタゴラスイッチの一部を、ITによって置き換えても、全体の生産性は、それほど変わらないのは当たり前のことでしょう。ピタゴラスイッチそのもののあり方を見直さないままに「残業するな」と言われても、どうにもならないことが多いのです。

生産性向上の基本は、そもそも、その組織の存在目的(customer promise)はなんだったのかを思い出すことから始まります。例えば、その存在目的が「15名の利用者とその家族のQOLを〇〇の状態以上で維持する」というものだったとします。

生産性向上は、こうした存在目的をしっかりと共有した上で「その存在目的を満たすために必要な業務は何か」という逆算を行います。ピタゴラスイッチになってしまっている業務のあり方を、存在目的に向けてまっすぐに作り直すのです。ここにITを使うかどうかは、その後の話なのです。

利用者のQOLを測定しているのか?

そもそも、日本は、介護サービスを必要とする利用者とその家族のQOLを測定しているのでしょうか。個別には、そうした活動をしている優良な介護事業者が存在していることは事実です。しかし、国としての日本は、利用者のQOLを測定し、そこから課題を理解し、その課題を解決しようとしているのでしょうか。

利用者とその家族のQOLにとって、どのような業務が最も重要かさえ、それを測定していないと、本当はわからないのです。もちろん、利用者やその家族と対面で話をするといったケアの方が、どこかからきたアンケート調査に答えることよりも重要であることは明らかです。

それでも介護現場には、それが感覚値であったとしても、どのような業務が重要なのかという知恵があります。せめて、そうした知恵をしっかりと集めて「介護業界がもっと注力すべき業務」と「そうでない業務」の振り分けくらいはしてもらいたいところです。

タブレットを使えば、それで解決ということは、まずありません。もしそうであるならば、世界中の企業が、全従業員にタブレットを配っているはずだからです。しかし、タブレットというのは、手段の手段であって、本丸である、真の生産性向上からは遠いのです。

究極的には「専門性を備えている介護職がやらない業務」を決めて、その業務を(1)無くしてしまえないか(2)自動化できないか(3)介護職ではない人材がやれないか、という方向での議論が必要です。ただその前に、利用者のQOLをどう測定していくのかについては、決めていく必要があるでしょう。

※参考文献
・産経ニュース, 『厚労省に介護業務効率化のWG発足へ 自民・小泉進次郎氏「人に向き合う現場に」』, 2019年4月15日

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