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生協と人材派遣の健康保険組合が解散した

生協と人材派遣の健康保険組合が解散した

健康保険組合が過去のものになりつつある

健康保険組合は、国が整備してくれている健康保険に、企業がさらに上乗せする形でできている福利厚生の制度です。一般的には大企業が整備していることが多く、歴史的にも、こうした健康保険組合の存在が、大企業で働くことの重要な優位性になってきました。

健康保険組合の特徴としては、組合員として保険料を支払っていけば、定年退職後も、こうした優位性を保持することができるということです。何かと健康に問題を抱えやすい高齢者になると、健康保険組合のありがたみが身に沁みたりするようです。

ただ、こうした健康保険組合も、基本的には保険です。そして独立採算制が原則になっています。ですから、健康を害して、その利用をする人が人数的に増えれば、毎月の保険料が上がるという構造になっています。日本の高齢化は、そうした保険料の上昇を後押ししてしまっています。

結果として、現代の健康保険組合は、その4割もが、赤字運営になってしまっています。かといって、現役世代から、より多くの保険料を徴収しようとすれば、現役世代からの反発は必至です。

このような背景から、健康保険組合が解散するケースが相次いでいます。実際に、先の3月31日にも、派遣社員とその扶養家族(約51万人)が加入してきた「人材派遣健康保険組合」と、生協の従業員とその扶養家族(約16万人)が加入してきた「日生協健保組合」が解散しています。

みんなに関係のある話です

大企業に勤務していたり、特定の団体に所属していない人には関係のない話のように聞こえるかもしれません。しかし、それは事実ではありません。これは、国民みんなに関係する話なのです。

なぜなら、こうして解散する健康保険組合の組合員の多くは、中小企業向けの「協会けんぽ」に加入することになるからです。この「協会けんぽ」は、大企業のように財務的な体力のない中小企業の従業員のために、独立採算制ではなく、税金が投入されてできている福利厚生です。

つまり、解散する健康保険組合が増えれば増えるほどに「協会けんぽ」は大きくなり、その分だけ、国の財政が痛むことになるわけです。ただでさえ、社会福祉のための財政が枯渇しつつあるこの国で「協会けんぽ」が巨大化することは、大きな問題になるはずです。

これまで、健康保険組合の恩恵を受けてきた人にとっては、福利厚生の条件悪化というだけで大変なことです。さらに、日本全体という意味では「協会けんぽ」を維持するためのコストが大きくなり、日本の社会福祉が後退するという未来が見えるだけに、やはり大変なことなのです。

日本は、世界で最も成功した社会主義国家と言われていた時代もありました。しかし、そうした時代は今にも終わりそうです。近い将来「協会けんぽ」をどうするのかという議論も開始されることでしょう。

お互いを助け合うということが難しい未来

これまでは(1)国がまず国民の健康を守り(2)その不足する部分を企業が守り(3)さらに不足するところは地域が守り(4)それで残ったところが自己責任という社会でした。しかし、健康保険組合の解散が意味しているのは、この(2)の部分が消滅しつつあるということです。

そして(3)の地域による支援は、日本の近代化と共に弱体化し、その実態はほとんど存在しないに等しい状況でしょう。実質的に(1)と(4)しか残っていないわけです。しかし(1)は「協会けんぽ」の巨大化も含めて、財源の危機にあります。その結果として(4)の自己責任が際立つ状態になってきています。

いわゆる地域包括ケアと言われるものは、この流れを(3)の復権によって食い止めたいという国の願いがこもっている施策です。しかし、その現実は地域への社会福祉の丸投げであり、一部の例外をのぞいて、機能しているとは言えない状況にあります。

健康保険組合の解散は、一般には、あまり注目されていないニュースです。しかし、この背景には、ここで述べたような、日本の社会福祉の倒壊という、大きくて重たい事実があります。本当は、とてもショッキングなニュースとして、もっと話題になって良いものなのです。

健康保険組合の解散のみならず、今後は、様々な形で、日本の社会福祉の劣化が起こっていきます。大企業にいれば安泰ということは、全くありません。「どうなってしまうのだろう」ではなく、何もしなければ、確実に悲惨になります。

※参考文献
・共同通信, 『人材派遣など5健保が解散 高齢者医療への拠出増で』, 2019年4月1日

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