KAIGOLABの最新情報をお届けします。
東京都における、昨年末の介護人材の有効求人倍率が7.46倍となったことが報道されています(読売新聞, 2019年3月29日)。介護に限らない全職種の平均が1.93倍であることを考えても、この倍率は異常です。これは、1人の求職者を、7つ以上の介護事業所が取り合っているということになります。
需要と供給のバランスから、これだけ、人材に需要が発生していれば、介護人材の待遇は改善しそうなものです。しかし、そもそも売上が公費(保険点数)によって実質的に固定されてしまっている介護事業者は、待遇を改善すれば、すぐに赤字になってしまいます。
そもそもすでに、介護事業者の赤字は深刻です。特別養護老人ホーム、認知症グループホームの3割超が赤字です。通所介護、小規模多機能型居宅介護の4割超が赤字です。赤字ということは、貯蓄を切り崩していたり、金融機関からの借り入れで、なんとか事業を維持しているということになります。
ここで金融危機でも起これば、こうした赤字の事業所は軒並み倒産します。黒字の事業所も、そうした将来に備えて貯蓄を増やしておく必要があるため、どうしても人件費に回せるお金がないわけです。
ここまで来ると、介護人材が採用できないのは、介護事業の経営者の責任とは言えません。それは(1)介護業界は他の業界から人材を持ってくる必要がある(2)しかし介護業界全体として待遇が上げられない(3)他の業界も人材不足のため他の業界では待遇改善が進んでいる、からです。
介護は本来、とても魅力のある仕事です。しかし慢性的な人手不足により多忙化しており、本来の業務に支障が出ています。また、どうしても待遇が他の業界に劣るため、他の業界と人材を取り合えば(ほとんど)必然として負けてしまうのです。
この勝てない人材争いの結果が、東京都における介護業界の有効求人倍率7.46倍という形で現れているわけです。消費者の視点からは、これは、東京都で介護が必要になった場合、それを供給してくれる介護事業者を見つけるのは、かなり大変だということを意味しています。
困ったことに、ここまで有効求人倍率が上がると、介護業界全体として、人材紹介や人材派遣を頼らざるを得なくなります。そうなれば、ただでさえ介護業界の売上は足りていないのに、介護業界から人材業界に対してお金が流れてしまい、コストばかりが上がってしまうのです。
この背景からすれば、本当は、介護業界に流す公費(税金や社会保険料)を増やすべきところです。しかし、日本全体が衰退しつつある中、国としても、介護業界に流す公費を増やすというのは、広い意味での増税ということになりますから、そう簡単にはできません。
そうなると、介護事業の経営者は、公費への依存度を下げ、保険外サービスに参入するしか生き残りの手だてが無くなります。保険外サービスというと、不当な利益といった印象を持つ人も多いのですが、それがないと、通常の介護サービスを届けても赤字になるケースが少なくないのです。
十分に利用者と関わり、訪問をしたり、一緒に買い物をしたりするといった通常の介護を止めないためにも、なんとか、利用者のQOLに資する保険外サービスの構築を急ぎたいところです。簡単なことではありませんが、他に方法は残されていないように思います。
※参考文献
・読売新聞, 『介護の現場貴重な担い手』, 2019年3月29日
KAIGOLABの最新情報をお届けします。