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2025年には、日本で認知症に苦しむ高齢者は1,100万人(MCI含む)にもなります。国民10人に1人が、認知症になるわけです。そうなると、認知症になったとしても、その人が、住み慣れた場所で心地よく暮らしていけることが重要です。
厚生労働省は、これを実現するため、2015年より、認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン)をまとめ、推進しています。この新オレンジプランでは、様々な取り組みの中で、認知症の診断のみならず、認知症が疑われる人などについても、早期に対応することが重視されています。
実際に、介護現場では、症状が進んでしまってから、やっと認知症と診断されて介護が開始されるという実態が、長く問題視されてきました。現行の介護保険制度では、要介護認定されないと、介護のプロが介入できないことから、早期対応が難しいのです。
そこで、厚生労働省は、認知症初期集中支援チーム(主な政策4)を設置し、早期対応の方向性を出しました。しかしその実態は、チームのリソースが特に支援が困難なケースに割かれてしまっており、本来期待される、より広域で網羅的な早期対応にまでは至れていないとも言われます。
こうした問題意識から、研究者たちは、福祉先進国として有名なスウェーデンの対応を学んでいます。そんなスウェーデンの対応について、以下、参考文献に示した論文(吉原, 2019年)の内容を基礎としながら、一部、簡単にまとめてみます。より詳細は、この論文(原典)にあたってください。
まず、早期対応のチーム名には「記憶力チーム」といった名前が採用されており、日本のように「認知症チーム」という名前にはなっていません。これは、このチームによる支援を受ける側の気持ちに配慮したものです。そもそも、早期対応が必要な人の多くは、認知症と診断される前の段階にあるはずです。そうした人に対して「認知症チーム」が関わることは、デリカシーの問題を超えているように思います。日本も「記憶力チーム」のような名称に変更すべきではないでしょうか。
まず、スウェーデンの「記憶力チーム」は、1ユニット3名(作業療法士、看護師、認知症コーディネーター)で活動しています。調査された地域では、この1ユニットで、85名の利用者を把握していました。この85名のうち、45名は(まだ)介護サービスを使っていない、自宅で暮らす人々です。ここが、本当の意味での早期対応になるでしょう。日本の「認知症初期集中支援チーム」は、どれだけ、早期対応ができているか、比較したいところです。
「記憶力チーム」にとって、新規の利用者を把握することは、非常に重要な仕事になります。これが遅れてしまえば、本来の早期対応が不可能になるからです。この把握には、5つのチャネルが機能しています。それらは、病院(診療所)、自治体窓口、介護職、家族、地域住民です。介護職は、日々の介護の中で、例えば、脳梗塞からの麻痺が残っている利用者の状態が、認知症が疑われるようになれば、すぐに「記憶力チーム」につなぐようなイメージです。
福祉先進国スウェーデンとはいえ、日本と同じように、高齢化と要介護者の増加に苦しんでいます。例えば、増え続ける認知症の人に対して、デイサービス(日本の小規模多機能に近いサービスを行っている)のキャパシティーが足りていないことが課題になっているようです。
また、かつては、利用者と介護職が一緒に買い物に行き調理していた昼食も、今では自治体が提供する一律の冷凍配食になっています。自治体は衛生管理と栄養の側面からの変更と言っていますが、本音ではないでしょう。高齢者福祉の3原則からしても、自己決定の原則が減退していることは明らかです。
この背景には、スウェーデンもまた、社会福祉のための財源確保に苦しんでいるということがあると考えられます。スウェーデンでは、実は、産業の空洞化が進んでおり、企業の本社や工場の国外移転が問題になっています。
特に工場が国外に移転すると、大量の雇用が失われてしまうため、税収はもちろん、失業対策としての社会保障費がかさみ、ダブルパンチになるのです。いかに福祉先進国とはいえ、スウェーデンもまた理想郷ではないことには注意が必要でしょう。
※参考文献
・吉原 雅昭, 『スウェーデンにおける居宅で暮らす認知症高齢者への専門組織による支援 : 3市における聞き取り調査を中心に』, 社會問題研究 (68), 49-67, 2019-02-28
・JETRO, 『産業空洞化問題と福祉政策の見直し(スウェーデン)』, ユーロトレンド, 2000年6月
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