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【業界全体が注目】おやつ死亡事故、有罪判決・・・

おやつ死亡事故、有罪判決・・・(長野地裁松本支部)

特養で起こってしまった死亡事故

2013年12月12日、長野県の特別養護老人ホームで、当時85歳だった女性が、おやつに食べたドーナツを喉に詰まらせて意識不明となりました。非常に残念なことに、この女性は、意識不明となった1ヶ月後に死亡しています。

この事故の責任が、この女性の介護をしていた准看護師にあるかどうか、長野地裁松本支部で争われていました。この裁判で、准看護師の有罪判決(業務上過失致死)が3月25日に示されてしまいました。なお、この裁判には、准看護師の無罪を求める約45万人の署名が提出されています。それだけ、注目を集めている事件なのです。

この裁判を准看護師側で戦った弁護側は、この有罪判決を不服として、控訴しています。これから、また何年もかけて争われることになります。今後も、医療・介護業界全体から注目を集めることになるでしょうし、署名もさらに増えていくものと思われます。

もちろん、この事故において、一般的な介護と比較して本当に極端な過失があったのなら、こうした判決もあり得ます。しかし報道を見る限りにおいては、極端な過失というイメージはありません。とはいえ、今後もこの点については注意する必要はあります。

最高裁で有罪が確定してしまった場合

最高裁まで争われ、それでも有罪が確定してしまった場合、どのようなことが起こるのでしょう。以下、いくつかの視点から、この裁判が持っている意味について考えてみたいと思います。

介護業界から逃げ出す人材が増える

介護業界は、全63業界の中でも最悪の待遇とも言われる業界です。そんな最悪の待遇でも、介護を必要として困っている高齢者に手を差し伸べ、24時間対応で現場を守っているのが、介護職です。高齢化が進む日本では、数十万人規模で、介護職が足りていません。待遇が悪く厳しい仕事だからです。当然、介護業界を離れたいと思っている人は少なくありません。この准看護師が有罪となってしまえば、介護の仕事は、あまりにも高リスクになります。低賃金なのに高リスクでは、とても頑張っていけません。そんなことになれば、ギリギリの状態で踏みとどまってくれている介護職の多くが、介護業界を離れていくでしょう。そうして困ることになるのは、日本の社会全体です。親の介護を、自分の代わりに担ってくれる人がいなくなるだけではありません。いつか自分自身の介護が必要になったときも、大変なことになるでしょう。

事業を閉じる介護事業者が増える

介護業界で介護事業を行なっている会社の多くが赤字です(訪問介護・通所介護・小規模多機能の4割、特養の3割が赤字)。経営努力が足りないと言えるのは、業界全体が黒字なのに、赤字という場合だけです。これだけの割合で赤字になっているのは、そもそも、介護業界の構造自体が儲かりにくい形になっていることを示しています。赤字の介護事業者は、いつ事業をやめるか、常に考えているような状態でしょう。そもそも事業を続けたくても、赤字では続けられません。そんな状態なのに、事故で訴えられれば高額の賠償金が求められるような環境になってしまえば、もう、本当に続けられません。リスクに敏感な銀行も、介護事業への融資は断らざるを得なくなります。こうした有罪判決が続けば、多くの経営者が、介護事業から撤退して、他の事業を始めるでしょう。

高齢者に関わる人が減る

高齢者になれば、多くが仕事を引退し、心身も衰えて外出も難しくなります。そうした高齢者は、どうしても孤独になりやすいものです。しかし孤独は、健康にとって非常に大きな害をもたらすという調査報告も多く、放置することができない社会問題です。そうした社会問題を少しでも改善しようと、多くの人が、善意から、高齢者の見守りに参加しています。しかし、高齢者の見守りをしていて、そのとき、高齢者が食べ物を喉に詰まらせたりしたら、どうなるのでしょう。そもそも、飲み込む力が弱まっている高齢者は、よく、食べ物を喉に詰まらせてむせたりするものです。そんな高齢者と関わるということは、高齢者が喉に食べ物を詰まらせる瞬間に立ち会う可能性を上げるということでもあります。結果として、有罪判決を受けてしまうリスクも上がることになってしまいます。そんなリスクを犯してまで、高齢者に積極的に関わる人が、どれだけいるのでしょう。

介護に関わる人々の訴訟リスクを下げるべき

以上のようなことから、これからの日本を考えるなら、介護に関わる人々の訴訟リスクは下げるべきです。日本の社会保障財源は枯渇しつつあり、今後、高齢者1人あたりに使えるお金は減っていきます。逆に、介護職1人あたりが担当する高齢者の数は増えるのです。

そうした環境においては、どうしても、事故が増えます。この事故の責任は、善意から、低い待遇でも現場で頑張っている人々にあるのではありません。高齢者1人あたりに使えるお金を増やせない国にこそ、その責任があるのでしょう。

せめて、国は、介護現場で働く人々のために、訴訟コストと、訴訟のために犠牲になる時間分の給与保証と、有罪となった場合の賠償費用を負担すべきです。または、こうした費用を肩代わりしてくれる保険に、介護現場の人々を強制的に加入させる(保険の費用負担は国)ような仕組みが必要です。

介護業界は、高齢化が進む日本では、社会構築の基礎となる重要な業界です。そんな介護業界は、業界存続の危機にあると言っても過言ではないのです。ただでさえ危機にあるのに、その上さらに、訴訟リスクまで負わされるとなれば、現場は、とても続けられません。

本当に、こうした裁判が続き、有罪判決がどんどん生まれる社会になってしまえば・・・私たち自身が高齢者になったとき、誰も関わってくれない、恐ろしいまでの孤独に、私たち全員が取り込まれることになるでしょう。

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