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子供の教育において、いつも議論になるのは、将来、どのようなスキルが必要になるのかということです。議論になるということからも明らかなとおり、これからの社会で求められるスキルというのは、そうそう簡単に理解できるものではありません。
変化の激しい現代社会においては、これと同じことが、大人にも言えます。少なからぬ大人が、将来の自分自身のために、なんらかのスキルを獲得しようと努力しているものの、そうして学んでいるスキルが、本当に有用になるのかについては、不安に感じているのが実情だと思います。
とはいえ、目線を個人から社会に拡大すると、求められるスキルを提供できない教育機関は淘汰されていきます。いかなるスキルが求められるのかという議論は、いずれは淘汰によって決着のつく話でもあるわけです。個人が不安に思うのは、その先読みが求められるからに他なりません。
ここで、進化論上の自然淘汰と、こうした教育機関の淘汰には、大きな違いがあります。それは、教育機関の淘汰には、人間の意思を働かせることができるという部分です。そうした事例の一つとして、ドイツの介護人材確保について、考えてみます。
ドイツでは、日本に先駆けること5年、1995年に、介護保険法が成立しています。ドイツでも高齢化が進んだ結果として、介護への社会的な要求は高まり続けています。そうして、介護の専門職に求められるスキルも、どんどん増えているようです。
しかし、ドイツでも、介護の専門職の人材不足が深刻化しています。介護の専門職は離職率が高いという問題も、これに拍車をかけています。介護の専門職の離職率が高い原因は、つらい仕事なのに賃金が安く、そこで獲得されるスキルが、将来のキャリアアップにつながらないなど、日本とよく似ています。
介護の専門性獲得が、将来のキャリアにつながらない証拠として、ドイツでは、介護の職業訓練校の生徒数が減っていることが挙げられています。日本でも、介護福祉士の養成校の定員割れが深刻化しており、ドイツとまったく同じ現象がみられます。
この状況に対して、ドイツでは、カリキュラムの中身をより意味のある魅力的なものにするだけでなく、介護の職業訓練校で学ぶ生徒には、授業料を無料とし、逆に、お金を支払うことにしたのです。これによって解決されるのは、介護の問題の一部にすぎませんが、日本とは異なる部分として、参考になります。
ドイツにおける事例の背景にある大切な考え方は「社会に必要なことは社会で負担すべき」というものです。先の変革も、介護人材の確保は社会の要請であり、その人材育成もまた、社会が負担すべきと考えた結果として生まれたものです。
ドイツもまた、社会福祉のための財源に不安があります。しかし、介護人材は、本当に社会から求められているわけですから、その訓練校を淘汰させるわけにはいかないのです。そこで、介護人材の養成校に向かう生徒を増やすという施策を打ち出したのです。
2025年まで、残すところあとわずかになってきています。人材の育成には、時間がかかります。2025年になって、問題がより顕在化してから対応しても、間に合わないのです。実質的な対応期間は、あと2〜3年程度でしょう。
介護の人材育成に対して、ドイツのように、お金を出すことを検討する必要もあるでしょう。それだけでなく、その後の離職率を下げるためにも、介護業界の待遇改善は、どうしても進めないとなりません。これに失敗したとき、私たち自身の介護の担い手がいなくなってしまうのですから。
※参考文献
・木下 秀雄, 『ドイツにおける高齢者介護専門職の職業訓練システム : 高齢者介護法(AltPflG)から介護職法(PflBG)へ』, 龍谷法学 51(1), 1, 2018-10-30
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