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70歳までの雇用が義務化される流れ?より厳しい未来につながる人も多い

期待値管理

社会保障がもたない

日本の高齢化が進み、現役世代の人口が急速に減っています。現役を引退し、主な収入を年金のみに頼る人が増えてしまうと、それだけ、社会保障のための費用がふくらんてしまうのは当然です。ところが、いまの日本は、この年金でさえ危険な状態(IMFの指標から)にあります。

そこで高齢者の定義自体を見直し、現役でいられる期間を長くするという議論も生まれています。ただ、仮に年金の支給が75歳からになると、多くの人が、65歳で定年退職してから10年もの期間を自力でなんとかしなければならなくなります。いきなり、それは不可能でしょう。

そこで、この方向性における当然の流れとして、企業に対して、雇用の延長を義務化するという話が出てきます。来年の夏には、その基礎となる法整備が終わる見通しです(時事通信, 2018年)。75歳まで雇用が延長されたら、年金の支給開始を遅らせることができるだけでなく、税収面でも大きなメリットがあるからです。

実際には、それほどうまくいかない可能性が高い?

この話は、雇われる側からすれば、ありがたいことのように感じられます。定年が延長されたら、それだけ将来不安も減ります。長く働くのが嫌なら、貯蓄をして、はやめに自分で会社を辞めればよいだけです。ただ、この話は、それほど単純ではありません。

まず、定年が延長されると、待遇面で有利な管理職のポストは、それだけ空かなくなります。そうなると、企業の新陳代謝が悪くなるため、企業としては、役職定年のようなものを設けることになるでしょう。結果として、60〜70歳のあたりの年収は、思ったほどにはもらえないことになる可能性も高くなります。

企業とすれば、解雇規制が強く、定年以外ではそうそう解雇できない状態で、定年が延長されるのはリスクです。このリスクを下げるためには、正社員を減らして、非正規社員を増やすしか対応策がありません。すでにその傾向は顕著で、日本の労働者の37%程度は非正規社員です。

定年延長といった話が通用するのは、あくまでも正社員です。そうした正社員が、定年延長があるからという理由で減らされ、そうした制度では守られない非正規社員が増えていくとしたら、どうなるでしょう。定年延長というのは、多くの人にとって絵に描いた餅であり、かえって正社員の壁を高くするものになります。

解雇規制と向き合うときがきている

定年延長の話は、年金の支給開始年齢の議論と合わせて、避け難く進んでいくことでしょう。まずは70歳定年と70歳からの年金支給が実現されることが、国としては内部的な目標になっているのだと思います。これは、大筋では、日本の将来にとって良い方向の議論であると考えられます。

問題は、この議論は、正社員として雇用されている人にのみ適用される話だということです。非正規社員の場合、定年という概念がないまま、年金だけが70歳からに引き上げられることになります。非正規として、いつまで自分に仕事があるかわからないのに、年金支給だけが後ろ倒しされるのは、相当に厳しいことです。

定年延長が実現されると、企業は、正社員を減らす方向に動きます。現在すでに労働者の37%にまでなっている非正規社員は、40%を突破し、いずれは過半数になったというニュースを聞く日もありそうです。そうした未来において、過半数の人には、ただどこまでも不利益となる定年延長が、いま、日本において決定されようとしています。

本来であれば、解雇規制を世界の平均的な水準にまで緩和し、正社員と非正規社員の格差を是正することから着手すべきところです。その上で、すべての労働者にとって意味のある議論をしないと、二極化は、ますます拡大することになります。

※参考文献
・時事通信, 『70歳就業、義務化検討=法制化へ来夏実行計画―政府』, 2018年11月26日

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