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認知症になると、この世界が、他人とは違ったものに見えていきます。そうなると、どうしても、他人からは理解できない行動をしてしまうことも増えます。そうした行動の中には、徘徊(意味もなくウロウロすること)が含まれます。
ただ本人からすれば、意味もなくウロウロしているのではなく、その世界で、合理的な行動をしていることも多いのです。他人からは、それが徘徊に見えてしまっているだけということです。そうした認識も広がりつつあり、この徘徊という言葉も、注釈なしで使用されることが減ってきています。
ただ、こうした徘徊が発生してしまうと、本人は、出て行った先で、自分がいる場所がよくわからなくなってしまったりします。そうして行方不明になる認知症患者は、年間で1万人を超えているというのが、今の日本の現実です。
KAIGO LABでもなんども取り上げているとおり、医療業界もまた、介護業界と同じように、国の財源不足を原因とした人手不足におちいっています。人手不足の状態で、徘徊が発生してしまうと、とても対応できないのが、いまの医療業界です。
しかし、そうして認知症患者が事故にでも巻き込まれてしまえば、病院や医療スタッフは、訴訟の対象になってしまうのです。そのような訴訟リスクを受け入れるくらいなら、徘徊の危険性が高い認知症患者を拘束するということが起こっているのです。
認知症の人が病気やけがの治療で一般病院に入院した際、事故防止を理由に手足などを縛られる身体拘束。入院患者のほぼ3割が拘束を受けているとの調査結果もある。医療現場の苦悩と改善への動きを報告する。
午後7時を過ぎても、2階と3階の病棟はざわめいている。東京都内の約60床の一般病院で、当直の院長に同行した。患者は70歳代後半から90歳代が中心だ。入院の理由は様々だが、認知症の人が多く、4人に1人は何らかの拘束を受けている。(後略)
拘束をされ、身体が動かせなくなると、そもそも徘徊することができた人が、徘徊さえできないほどに弱ることも多くあります。こうした拘束が原因で、認知能力が低下するだけでなく、身体能力までもが奪われてしまう可能性が出てくるのです。
医療関係者も、そうしたことを、非常によく理解しています。ですから医療現場では、できるだけ拘束はしないように、必死の対応がなされています。それでもなお、どうしても拘束せざるをえない状況が、4人に1人という割合で発生しているのです。
2025年には、こうした認知症患者は700万人に、そして軽度認知障害(MCI)まで含めると1,300万人が認知症に苦しむとされています。それに対して、医療スタッフの数が増えるわけではないので、今後、こうした拘束は、数も割合も、加速度的に増えていくことになります。
認知症を原因とした徘徊は、周囲に、多くの訴訟リスクを発生させています。近年でもっとも有名なのは、認知症の夫(当時91歳, 要介護4)の徘徊事故を、その妻(当時85歳, 要介護1)の監督責任の問題として争われた裁判でしょう。この裁判は、最高裁で監督責任なしとして退けられています。
近いところでは、認知症患者が入院中に転倒し、病院に2,770万円の賠償命令が出されたというものがあります。屋外での事故ではなく、病院内での事故であっても、こうして多額の賠償金を支払う必要があるのです。医療現場に対して、拘束するのをやめて、このリスクを取れというのは、もはや無理な話です。
これからの日本を考えたとき、なにもしなければ、こうした訴訟の発生件数は激増し、拘束や監禁もまた激増してしまうでしょう。そうして、心身ともに衰弱した認知症患者もまた、考えられない数字までうなぎのぼりになっていきます。国は、いまこそ、認知症患者をめぐる事故についての法整備を進め、拘束をしなくてもよい環境を作っていくべきなのです。
※参考文献
・yomiDr., 『認知症の人の身体拘束(上)「やむを得ず」病院の苦悩…少ない人員 絶えぬトラブル』, 2018年11月5日
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