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定年退職をした高齢者には、ケアが必要だ

定年退職をした高齢者には、ケアが必要だ

仕事をやめると孤独へむかってまっしぐら

介護業界で話をしていると、それまで長年関わってきた仕事をやめるということの恐ろしいまでのリスクが見えてきます。特に現代の高齢者の場合、人生のほとんどを会社に捧げてきたという人も多いのです。そこから、会社という場を失ってしまうと、一気に孤独になってしまうのが問題です。

介護現場では、そうして孤独になってしまっている高齢者に対して、なんらかの社会活動に参加してもらうという介護が行われています。しかしそもそも、孤独は介護の原因になっているわけです。ですから本来であれば、介護を必要としない人に対してこそ、社会参加を促していく必要があります。

そう考えると、改めて、現代の定年退職という制度の残酷さが伝わってきます。現役時代には、極限まで会社に奉仕することが求められてきたのに、いざ、65歳になったら「さようなら」というのは、年齢差別でしょう。

今後の日本では、働き方改革が進むことで、定年退職後の孤独は減らせるはずです。しかしいまの高齢者は、家族や趣味を省みないで、とにかく会社に人生を捧げることが当たり前の時代を生きた人々なのです。そうした人々にとって、仕事をやめることは、孤独まっしぐらなのは仕方のないことでしょう。

孤独は大きな健康リスクであるという認識が必要

孤独は、喫煙や肥満よりも、ずっと健康に悪いという調査結果もあります。筑波大学は、孤独な人の要介護・死亡リスクは、そうでない人の約1.7倍も高いという研究結果を発表しています。健康で介護を必要としない高齢者を増やすには、孤独を減らす必要があるわけです。

イギリスの場合、こうした認識をベースとして、孤独担当大臣まで設立しています。これまで、孤独というのは個人の問題でした。しかしこれからは、孤独は社会問題であり、社会として、孤独を減らしていくという活動が求められているのです。

そうして全体像をみると、日本における諸悪の根元は、定年退職という制度そのものであることがわかります。ただ、いきなり定年退職という制度を破壊してしまうと、他に様々な問題が発生してしまうのが難しいのです。

特に、年功序列の傾向が強い日本では、定年退職がなくなってしまえば、給与の高い高齢者の存在が、若手の賃金向上をブロックしてしまいます。また、解雇規制が厳しく、パフォーマンスが悪くても首にできない日本では、定年退職が、人材の入れ替えにとって重要な役割を果たしてきたという事実も見逃せません。

定年退職をした高齢者のケアが必要

いきなり定年退職をなくすことは乱暴にすぎます。とはいえ、定年退職をした高齢者を放置しておけば、少なからぬケースで孤独が生まれ、結果として介護を必要とする高齢者も増えてしまいます。そうなると、鍵となるのは、定年退職をしたことで孤独になっている高齢者のケアということになりそうです。

大企業では、定年退職後のセカンドキャリア開発を目的とした研修が、定年退職をする前に組まれるところも多くあります。一部では「たそがれ研修」と呼ばれたりして、その研修の案内が自分のところにくると「いよいよか・・・」と暗い気持ちにもなるのも事実でしょう。しかし、こうした研修の意味は大きく、今後は、より広く実施されていく必要があります。

そうした定年退職をする前の研修も大事です。同時に、定年退職後には、専門家がそれぞれにケアをするような仕組みが求められます。このために財源を使えない場合、後になって、介護を必要としたり、病気になったりする人が増えてしまい、財源はもっと痛むことになります。

さすがに孤独担当大臣というのは、名前としては日本で採用しにくいものかもしれません。しかし、日本の未来を考えたとき、定年退職をして、孤独になってしまっている高齢者に対するケアをしていくことは、非常に大事な施策だと思います。

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