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働きやすい介護現場を評価?裏目に出なければいいけれど・・・

働きやすい介護現場を評価?裏目に出なければいいけれど・・・

人事制度がしっかりとしている介護事業者を認定

介護業界は、少数の大企業と、大多数の中小企業で構成されています。大多数は中小企業ですから、人事制度がしっかりとしていることは、あまりありません。これが原因で、人材が採用できなかったり、採用できても定着せずにどんどん退職してしまうということは、事実としてあります。

この状況に鑑み、厚生労働省は、大企業と中小企業の別なく、人事制度がしっかりとしている介護事業者を認定するという制度を開始することにしたようです。まずは以下、yomiDr.の記事(2018年10月15日)より、一部引用します(改行位置のみKAIGO LABにて修正)。

厚生労働省は、介護現場の人手不足が深刻なことから、研修や休暇制度など、「働きやすさ」に焦点をあてた介護事業所の評価・認証制度を全国で始める。今年度中にガイドライン(指針)を策定し、認証制度の実施を担う都道府県に通知する。来年度から指針を踏まえた認証制度の普及を目指す。(中略)

認証制度ではこうした声を踏まえ、「明確な給与・昇給体系の導入」「休暇取得や育児・介護との両立支援」「研修や資格取得支援などの人材育成」といった評価項目を設定。どの程度満たしているかを各都道府県が審査する。審査をパスすれば、「認証事業所」として、ホームページなどで公表する仕組みを検討している。審査は民間の各事業所が申請する。(後略)

介護職からすれば、本音ではまず、待遇の改善をしてもらいたいところです。とはいえ、自分が勤務している会社(介護事業者)が、人事制度を整えてくれて、少しでも働きやすい職場になることは大歓迎でしょう。問題は、こうした状況を生み出す優れた人事制度の導入は、簡単ではないという部分です。

人事制度を整えるためには多大なコストがかかる

そもそも介護業界に限らず、中小企業の多くが人事制度を整えていない背景は、人事制度の整備にはかなりのお金がかかるからです。人事制度の導入は、安いITパッケージを導入すればよいという話ではないのです。基本的には、コンサルタントを入れて、以下のようなプロセスを進める必要があります。

まず、人事制度の導入には、現在の組織課題を洗い出して分析する必要があります。このために経営方針を明らかにしたり、従業員ヒアリングを行ったりします。人事制度は、現在の組織課題を解決するものでなければ、意味がないからです。

その上で、求める人材像を、職種ごとに定義していく必要もあります。ここの言語化がうまく行かないと、人材を評価することも、教育する方向性も明らかにならないからです。求める人材像は各職種につき1つではなく、それぞれを複数の階段として表現することで、やっと等級や役職が定義されていきます。

次に、こうして定義した職種ごと、等級ごと、役職ごとに、給与を仮置きします。このあと、ここで仮置きした給与が、現状とかけ離れていないかどうかをシミュレーションするのも大変な作業です。現状では奇跡的に現状とほぼ同じになるにしても、中・長期的な昇進昇格を考えると、予算オーバーになるようなケースも少なくありません。

そして一番大変なのは、現場への人事制度の導入(浸透)です。人事制度は、コンサルタントの世界では「設計3割、運用7割」と言われるのですが、そもそも設計が優れていても、運用できない人事制度では意味がありません。こうしたステップを全てクリアするまで、最低でも半年、長いと2年くらいはかかるのが人事制度の導入なのです。

認定制度だけでなく、ホームページで公開されることが恐ろしい

経営判断として、こうした複雑な人事制度を導入するコストを支払うくらいなら、そのコストに消えるお金を従業員の給与として還元したいということもあります。そのお金で、新規事業を立ち上げる場合もあるでしょう。しかし、今回の厚生労働省による認証制度は、これをホームページで公開するというのです。

転職を考えている介護職からすれば、ありがたいことです。人事制度がしっかりとしている介護事業者を選ぶことができますから。しかし、そのほとんどは、コンサルタントにお金を払う余裕のある大企業ということになるのは目に見えています。

ある意味で、中小企業を淘汰させて、大企業だけを生き残らせるという戦略なのかもしれません。しかし大企業は、規模の経済が働かない事業からは撤退するという性格を持っています。実際に、採算の合わない地域から大企業が撤退するということは、すでに発生していることです。

繰り返しになりますが、介護職の立場からすれば、優良な介護事業者を見つけやすくなるのは良いことです。問題は、それが、介護業界の淘汰を進めてしまい、結果として、規模の経済が働かないような地方で、介護事業者ゼロを実現してしまわないかということです。

こうして人事制度を導入し、従業員のキャリアパスを整備したら、そこに助成金が出るという自治体もあります。また、今後、そうした助成金が整備される自治体が増えることも予想されます。ただ、そうした助成金は、人事制度の導入コストを上回っていないと意味がありません。このコストの見積もりに間違いがないことを望むばかりです。

※参考文献
・yomiDr., 『介護職場「優良」認証、昇給や休暇を審査…厚労省方針』, 2018年10月15日

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