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精神腫瘍医(せいしんしゅようい)を知っておきたい

精神腫瘍医(せいしんしゅようい)を知っておきたい

精神腫瘍医(せいしんしゅようい)とは?

「精神腫瘍医(せいしんしゅようい)」という言葉をご存知でしょうか?日本では、まだ聞きなれない言葉だと思います。精神腫瘍医とは、がん患者やその家族の心のケアを専門的に行っている精神科医のことです。特に、がん患者とその家族の心のケアを専門に行っている診療科のことを「精神腫瘍科」といいます。

もともとは、1977年にアメリカ・ニューヨークの「メモリアル・スローン・ケンタリングがんセンター」に精神科部門が設立されたのが始まりとされています。この頃より「がん」と「心」の関連性を研究する学問、精神腫瘍学(サイコオンコロジー)が生まれました。これは、心理学(Psychology)と腫瘍学(Oncology)を組み合わせた造語です。

日本では、2人に1人ががんの診断を受けています。現在のがんは、死に直結する病苦とは言えません。それでも一般に、がんの告知は、精神的にも負担の大きな出来事です。精神腫瘍医とは、がんと告知をされた方々やその家族の心のケアにあたり、がんとともにその人らしく人生を歩き続けるための支援をしてくれる存在です。

がん専門の精神科医・清水研と患者たちの対話

人生でほんとうに大切なこと がん専門の精神科医・清水研と患者たちの対話

人生でほんとうに大切なこと がん専門の精神科医・清水研と患者たちの対話』(稲垣麻由美著, KADOKAWA)という本があります。本書は、国立がん研究センター中央病院の精神腫瘍科長である清水医師と7人のがん患者の対話や経験をまとめたものです。

清水医師は、これまでに3,000人以上のがん患者の心の声に耳を傾けてきました。そして、本書は「精神腫瘍科の存在を、がん患者とその家族に知ってもらいたい」という一人の患者の切実な願いから生まれました。その患者とは、本書の第7章に登場する千賀さん(50代男性)です。

千賀さんは、IT関連企業にて新規事業開拓の責任者として精力的に仕事を行っていました。しかし突然、5年生存率5%の肺がんであると診断を受けます。診断を受けたのちに、様々な葛藤や絶望の淵に立たされたような心境の中で、精神腫瘍医である清水医師との対話が始まりました。

精神腫瘍医との対話がなにをもたらしたのか

清水医師との対話の中で、千賀さんは、一つ一つの心配や不安、葛藤など、心の整理を行っていきます。はじめは、がんの痛みに対して薬で痛みをコントロールすることに対して抵抗感があった千賀さんですが、対話の中で鎮痛薬に対するネガティブな認識を修正することができたりもします。

その後、なんと千賀さんは、がんと上手く付き合いながらフルタイムで仕事に復帰するという希望を叶えています。そして、がんの診断を受けてから2年以上も、精神腫瘍科の清水医師との対話を続けているのです。がんの告知を受けてから、今までの人生を振り返り書かれた千賀さんの日記の記述を、以下に引用します(改行位置のみKAIGO LABにて変更, p152)。

「朝のハグ」

毎朝、出勤時に玄関で妻がハグしてくれます。新婚当時もそんなことはなかったのに(てれっ)。病気になって残念なことはありますが、残念なことばかりでもない、と思います。初老の夫婦のハグですが、妻がチャーミングなので、勘弁していただきたい。

病気をする前は、自分が妻や家族を守っている、守らねば、そう、強く思っていました。ところが、病気になったことで、妻や子どもたち、友人たちと、本当の意味で「再会」することができました。それまで、自分の勝手なフィルターでしか、家族を見ていなかったのです。

自分が強ければ守ってやれる。それはそれで間違ってはいなかったかもしれません。でも実際は、妻に支えてもらっていた。みんなに補ってもらっていた。そんな「自分」とも、病気のおかげで再会できました。いつか来る別れの時におびえて暮らすより、一緒にいられる日々を想って暮らしたほうが楽しい。

やっとこさ、そんな気分になった夫婦です。

肺がんと宣告されてから、もうすぐ二年目の春に

精神腫瘍医の存在はもっと広く知られるべきだと思う

清水医師は「人は苦悩を乗り越える力(レジリエンス)を持っている」(p128)と述べています。日々の不安や葛藤や苦しさを誰かに語ったり、日記を書いて文章にしてみることいった、自分の感情と向き合うことは辛いことかもしれません。しかし、結果的にはこれらの感情は解消され、癒されていきます(カタルシス効果, 精神の浄化)。

また、幼少期の過去から現在に至るまでの自分の人生を振り返ることは、自らの人生の彩りを改めて感じることにつながります。そして、過去から紡いできた経験を振り返ることで、今を生きている自分を以前にも増して受け入れることができるかもしれません。

精神腫瘍医は、がんの疾患や抗がん剤、疼痛コントロールなどの専門的な知識を有しています。チーム医療の中で、がん患者の気持ちに寄り添い、心の声に耳を傾けてくれる精神腫瘍医の存在は重要な役割を果たしています。がんは、多くの人がかかる病気です。精神腫瘍医の存在は、もっと広く知られるべきだと思います。

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