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治る認知症もある?認知症の原因となる疾患ごとに異なるアプローチ

治る認知症もある?認知症の原因となる疾患ごとに異なるアプローチ

認知症の原因になる疾患は70種類以上ある

認知症という言葉は、社会に定着してきた感じがあります。一方で認知症は、その原因となる疾患によって分類すると、実は70種類以上あるということはあまり知られていないと思います。しかし、認知症は、こうした原因となる疾患によって、症状も、適切なアプローチも異なるのです。

現実には、認知症の原因となる病気が複数混在していて、医師が診断した段階では、それぞれの症状が強かったというケースが多いのだそうです。どのみち、病気に関しては素人判断をせずに、医師に相談していくことが大事であることは、過去の記事でも、なんども述べてきました

認知症を研究している池田学氏は、著書の中で、認知症を大きく3つに分類しています。それらは(1)現在の医療で根本的な治療ができる可能性のある認知症(2)進行してしまうと回復は困難であるが発症予防や進行予防が可能な認知症(3)根本的な治療が困難な認知症、の3つです。

1. 根本的な治療法のある認知症の原因となる疾患について

まず注目したいのは、根本的な治療ができる可能性のある認知症です。今のところ、広く世間では「認知症は治らない」という認識が広まりつつあります。しかし、原因となる疾患によっては、こうした認識は正確とは言えません。

こうした認知症の原因となる疾患は、たとえば「慢性硬膜下血腫」や「正常圧水頭症」が挙げられます。どちらも脳外科手術により治癒ないし改善が期待されます。これらの原因による認知症の場合は、早期に発見し、医療機関につなげることが重要です。

まず「慢性硬膜下血腫」は、転倒して頭を強く打ったときの脳内の出血が原因です。小さな出血の場合、すぐに症状は出てこないことが多いようです。しかし、そうした出血が日に日にたまっていくと、認知症の症状が出現してくることがあります。

「正常圧水頭症」は、頭の中に水がたまってしまう疾患です。意識障害、失禁と歩行障害が半年から一年の間にほぼ同時に出現してきた場合には「正常圧水頭症」による認知症の疑いがあります。

2. 進行を予防する必要のある認知症の原因となる疾患について

進行してしまうと回復は困難なのですが、十分に発症予防や進行予防が可能な認知症もあります。専門的には、脳血管障害の後遺症としての血管性認知症と呼ばれるものです。

この種類に属する認知症の特徴は、意欲の低下のほか、歩行障害、構音障害(声帯などの発生器官や関係する神経の障害のために、言葉が上手く発生できない状態)、嚥下障害、感情失禁(些細なことですぐに涙ぐみ泣き出す現象)などがあります。また病初期には記憶障害が軽いことも特徴です。

発症予防や進行予防のためには、高血圧、糖尿病、脂質異常症(高脂血症)、虚血性心疾患(狭心症、心筋梗塞など)などの生活習慣を予防する必要があります。例えば、喫煙や飲酒、運動不足などの生活習慣の改善が有効と言われています。

3. 根本的な治療が困難な認知症の原因となる疾患について

根本的な治療が困難な認知症の原因となる疾患は、専門的には、脳の神経細胞がゆっくりと壊れていく神経変性疾患による認知症です。これに属する認知症としては、特に「アルツハイマー病」「レビー小体型認知症」「前頭側頭型認知症」の3種が有名です。

アルツハイマー病は、認知症の原因疾患の中でも一番有病者が多い種類です。認知症サポーター養成講座等で主に説明されている認知症は、アルツハイマー型認知症である場合がほとんどです。アルツハイマー病は、とにかく、ゆっくりと進行することが特徴です。

レビー小体型認知症は、アルツハイマー型認知症と類似点もあります。違いは、日ごとや1日のなかでも良い状態と悪い状態が揺れ動きながら、長期的にゆっくりと進行していくというところです。また、実際にはいない人や存在しない物が鮮明にあるように見える幻視の症状が病初期からみられるのも大きな特徴の1つです。

前頭側頭型認知症は、記憶障害は目立たないものの、万引き等の社会的行動の障害や、過食や嗜好の変化などが病初期からみられるのが特徴です。その他、1日中数キロの同じコースを歩き続ける常同的周遊や同じ行為を繰り返す反復行動もみられます。

認知症の原因となっている疾患を理解し、適切なケアを行おう

以上のように、一口に認知症といっても、原因となる疾患によっても症状は様々なため、適切なケアの方法も異なります。どの症状が強く出ているかは検査だけでは明らかにならないこともあります。その場合、普段かかわっている家族や介護職員の意見が参考になることは大いにあります。

認知症の研修等で得られる「適切なかかわり方」を実践するとうまくいかないこともあるかもしれません。原因となる疾患ごとに症状も異なりますし、個々人で症状の表出の仕方も異なります。認知症だからといって、適切なかかわり方をこれと決めつけず、目の前の要介護者の言動に合わせて、柔軟に対応する必要があります。

まずは、認知症の原因となっている疾患についての理解を深め、専門家に相談しながら、対応を考えていくという流れを作ることが大事です。その上で、そうした対応の結果を観察しながら、対応そのものを改善していくことが求められます。

※参考文献
・池田 学, 『認知症:専門医が語る診断・治療・ケア』, 中公新書, 2010年
・小阪 憲司(監修), 『レビー小体型認知症がよくわかる本』, 講談社, 2014年
・小阪 憲司, 羽田野 政治, 『レビー小体型認知症の介護がわかるハンドブック』, メディカ出版, 2010年
・小阪 憲司, 『レビー小体型認知症:よくわかる病気のこと&介護のこと』, メディカ出版, 2009年
・日本老年精神医学会監訳, 『認知症の行動と心理症状BPSD』, アルタ出版, 2013年

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