閉じる

スピーチロック(言葉の拘束)について

スピーチロック(言葉の拘束)について

介護をめぐる虐待の問題

高齢者の虐待は、社会問題になっています。ニュースになるのは、プロの介護職による高齢者の虐待ばかりですが、実際には、家族による虐待のほうが、およそ100倍という規模で発生しています。高齢者の虐待は、悪い人が行っているのではなく、普通の人(むしろ善人)が行ってしまうからこそ、怖いのです。

一生懸命に介護をしているのに、それが相手に伝わらないということは、よくあると思います。しかし、これは仕事でも同じですが、自分が一生懸命かどうかは問題ではなく、結果が大事でしょう。相手が喜んでくれる、安心して落ち着いてくれる、そして究極的には幸福を感じてくれるような介護が理想なのです。

そうして、一生懸命なのに結果がついてこないと、焦りと苛立ちが蓄積していきます。結果としてそれが虐待という形になってしまうことがあるのは、本当に不幸なことです。ただ、周囲が「一人で抱え込まないで」と伝えるだけでは、こうした虐待はなくなりません。ソーシャルワーカーへにつなぐなど、より具体的な支援が必要です。

スピーチロック(言葉の拘束)について

介護をしていて、要介護者に「さっさとして!」「動かないで!」「なにしてるの!」といった言葉を発してしまったことのある人は多いと思います。自分の怒鳴り声に、自分自身で驚いてしまったという経験もまた、介護の現場においては、よくある話です。

こうした言葉の暴力もある意味で虐待であり、専門的にはスピーチロック(言葉の拘束)と呼ばれます。それが物理的なベルトのようなものではなく、言葉によるものであっても、相手の行動を制限するというのは、拘束そのものだからです。

このスピーチロックは、プロの介護職でも、それがいけないことだとわかっていても、ついつい使ってしまうものです。論文(参考文献)によれば、こうしたスピーチロックを完全にゼロにすることは不可能だと考えている介護職も少なくないようです。しかし同時に、スピーチロックを行ってしまった後の後悔は非常に大きいこともまた事実です。

スピーチロックを回避するために

スピーチロックをゼロにすることは難しくても、とにかくそれは、自分自身のストレスにもなるものです。なんとか、スピーチロックの量を減らしていく工夫が必要でしょう。プロの介護職の場合は(1)スピーチロックを意識する(2)感情が高まったときは一呼吸おく(3)言い換える優しい表現を口癖として準備しておく、といったことをしています。

スピーチロックは、プロの介護職でもなかなかゼロにできないものであり、それが出てしまうのも仕方のないことです。しかしスピーチロックは、それを行う本人にとっても大きなストレスとなり、後悔や罪悪感につながるものでもあります。

誰のためにもならないので、私たちも、プロの介護職のノウハウを活用しつつ、少しでもスピーチロックを使わないようにしたいものです。それが要介護者の尊厳を守ることにもつながります。簡単ではありませんが、まずは意識することからはじめてみましょう。

※参考文献
・原 克行, 『スピーチロックの廃止に向けて』, 高齢者安心・安全ケア Vol.14 No.2

KAIGOLABの最新情報をお届けします。

この記事についてのタグリスト

ビジネスパーソンが介護離職をしてはいけないこれだけの理由