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経産省による介護を見すえた報告書(生産性の向上しかない)

経産省による介護を見すえた報告書(生産性の向上しかない)

将来の介護需給に対する高齢者ケアシステムに関する研究会

経済産業省は、大介護時代を迎えつつある日本の現状をベースとして、将来の介護需給に対する高齢者ケアシステムに関する研究会を発足させています。その報告書が、先の4月9日に提出されています。経済という視点から、日本の介護について詳しく考えられており、非常に重要なものになっています。

まず、この報告書では、日本は、このまま行くと(1)介護人材不足が進むことで介護の担い手がいなくなる(2)現役世代が親の介護に駆り出され介護離職が増加する(3)介護離職は日本の労働力不足に拍車をかけ日本の国力衰退と税収の低下につながる、という基本的なラインについての理解を示しています。

その上で(1)ICTの活用による介護の生産性向上(2)介護需要のより正確な把握による適切なリソース配置(3)高齢者の介護の必要性を下げる支援機能の構築、といったあたりの解決策を示しています。以下、この報告書が示す介護人材の需給バランス予測について、もう少し詳しく見て行きます。

1. 成り行きだと2035年には79万人の介護人材が不足する?

大きな問題意識として、報告書の中では、介護業界で働く人の数が全く足りていないことが示されています。この問題は、日本全体の労働力不足が問題視される中、解決の糸口がみえないものです。KAIGO LABでは一貫して介護業界の待遇改善を訴えてきましたが、この報告書は、待遇改善(これによる効果は8万人としている)以外にも、別の提言をしています。

対策の方向性として示されているのは、高齢者や女性の活用です。特に、キャリアアップを望まず、やりがいと、定型業務の遂行を重視する潜在的な労働者(介護サポーター)にアプローチするとしています。まさに貧富の格差固定につながる「やりがい搾取」なわけですが、報告書は、これによる人材確保はあまり進まないと見積もっています。

報告書の作成者も、介護サポーターという提案が機能するとは考えていないのです。こうした潜在的な労働者の確保ができたとしても9万人で見積もっています。仮に、この予測が正しいとしても、それでも70万人の人材不足が残ります。そこで、そのほとんど(51万人分)を、ICTによる生産性向上で対応しようという提言になっています。

とにかく介護人材は大きく不足します。この報告書は、待遇改善と介護サポーターという存在に触れてはいます。しかし基本的には、この人材不足はICTによる生産性向上で乗り切りたいという意図が前面に出ているように感じました。「できるできないもあるが、それ以外に方法はない」という気持ちが行間から読み取れます。

2. 2035年までは要介護・要支援者の増加ペースは変わらない?

今後、高齢者の数が劇的に増加していきます。特に85歳以上の高齢者の増加が顕著で、2015年時点では総人口の4%に満たなかった85歳以上の高齢者は、2035年には総人口の9%を突破すると報告書は予測しています。85歳以上の割合は、この期間で、2倍以上に膨れ上がるのです。

これによって、要介護・要支援者の数も、2015年時点で620万人だったものが、2015年には960万人になると予想しています。ここで前提となっているのは、要介護・要支援者の増加ペースに変化がないということです。ここには希望的観測があるのは明らかです。

2025年から、団塊の世代が後期高齢者(75歳以上)になります。さらに85歳以上(要介護・要支援になる人が6割を超える)の人口も増えていくことを考えると、本当は、2025年以降の日本における要介護・要支援者の増加ペースは、数段上がるはずなのです。

本当は成り行きの未来を予測すべきところなのです。しかしここには、効果的な介護予防がなされ、かつ、要介護認定の査定レベルを厳しくするといった成り行きとは異なるものが入っています。少しでも数字をよく見せようとする配慮があり、ここの予測をそのまま信頼することはできません。

この報告書をどう読み取るか?KAIGO LABとしての見方

この報告書は、介護を必要とする要介護・要支援者の数の予測が、成り行きではなく、様々な施策が成功した場合の数字になっています。介護の需要予測が甘いわけですから、当然、介護サービスの供給を行う人材不足も、甘めに出ていると考えるべきでしょう。すなわち、2035年に不足するのは79万人以上だということです。

そんなことは、経済産業省でこの報告書を作成した人々も理解しています。おそらくは、成り行きでは100万人規模での介護人材不足が発生するという議論があったはずです。しかし、100万人という数字は、無駄に絶望を煽る報告になってしまいます。そこで、介護の需要を少なめに予測する方向で報告書は調整されたと考えられます。

要するに、この100万人規模の人材不足は、ICTによる効率化で埋められないとなりません。待遇改善や介護サポーターでは全く間に合わないからです。それが、この報告書が行間から伝えてくる内容です。現在、介護業界には約200万人の労働者がいますから、業務効率を1.5倍にしないと成り立たない計算になります。

業務効率1.5倍というのは、現在のICTの発展スピードを考えれば、それほど難しいとは感じられません。それが実現されれば、介護事業者の収益性も高まります。結果として、計算上は、過去には3人分の人件費だったものを2人で分けることが可能にもなり、待遇改善にもつながるでしょう。

※参考文献
・経済産業省, 『将来の介護需給に対する高齢者ケアシステムに関する研究会 報告書』, 2018年4月9日

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