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介護業界では、毎年のように、倒産件数が過去最高というニュースが流れます。介護保険の財源が枯渇しつつあり、その財源に売上を依存している介護事業者は儲からないという状態になっているからです。儲からない中、多くの介護事業者は、なんとか頑張ってきました。
しかしこれからは、介護事業者として取り得る生き残り戦略は、規模の拡大によるスケールメリット(生産性の向上)しかありません。具体的には、倒産しそうな介護事業者を、まだ体力に余裕のある介護事業者が買収(M&A)するということです。
この流れが加速しつつある証拠として、介護事業者の買収を仲介するブティックス株式会社が、今月、マザーズに上場しています。このブティックス株式会社の社長は、介護業界の買収には、伸び代が100倍もあるとしています(日本経済新聞, 2018年)。こうした企業が増えてくると、介護業界の再編は一気に進む可能性も出てきます。
オーガニックに成長(買収なしの独自成長)しながらシェアを高めていく介護事業者が出てくれば、こうした、買収の仲介業が儲かるということもないわけです。ある意味でこれは介護業界が自ら規模を拡大することに失敗したということなので、残念です。
自分たちが必死で作ってきた事業が、誰かの手に渡ってしまうのは、悔しいことです。しかしもはや、いまの介護業界には、悔しがっている余裕はありません。なんとしてでも生き残り、利用者はもちろん、従業員の生活も守る必要があるからです。なにを守りたいのかを考え、悔しい気持ちは忘れる必要もあるかもしれません。
介護事業者は、実質的には、普通の企業ではありません。この社会に不可欠な社会インフラです。介護事業者が倒産して解散してしまうことは、少なからぬ利用者にとっては死を意味するほど重大な事件になってしまいます。仲介業によって、介護事業の存続が維持できるのであれば、やはり、お願いするしかないでしょう。
これから、特に介護事業の経営者は、多くの仲介業と会うことになります。自分の会社の財務状態が良い場合(バイサイド)は、仲介業が買収先の提案をしてくれます。逆に自分の会社が危ない場合(セルサイド)は、仲介業が、会社を買ってくれるところを紹介してくれます。
ただし、仲介業にも良いところと悪いところがあるので、どうしても注意が必要です。特に、介護事業の経営者の場合、十分な企業買収の知識と経験を持った人は少ないでしょう。そうなると、どうしても仲介業に騙されてしまう危険性もあります。企業買収は、大きなお金が動くだけに、怖い世界なのです。
とにかく、信頼できる企業買収のプロとの人脈形成を急ぐことが重要でしょう。それでも、どうしてもプロが見つからない場合は(1)リテイナーフィー(2)成功報酬の計算方法(3)支払い条件の3点には注意してください。どれも安ければ良いというわけでもない(安かろう悪かろうもある)のが、どうしても難しいところです。
以下、もう少しだけ具体的に考えてみます。なお、本稿に限らず、KAIGO LAB記載されているのは、あくまでも一つの参考意見であって、この意見を信頼したことにより生じた損害などについては、KAIGO LABやその運営会社、また執筆者個人の賠償責任は問われないものとします(詳しくは免責事項を参照ください)。
仲介業には、企業買収の相談をすることになります。重要な相談ですし、仲介業には、各種の調査や相手先の企業訪問など、様々な業務も発生します。このため、セルサイド、バイサイドに関わらず、企業買収の相談を公式に開始した時点から、仲介業に月額の固定報酬を支払うことがあります。この固定報酬を特にリテイナーフィーと言います。ただ、リテイナーフィーを支払っているのに、一向に買収の話がまとまらないケースもあります。仲介業は、むしろそのほうが儲かる場合もあるため、非常に危険です。そのため、月額の固定報酬ではなく、1度だけ着手金として支払うタイプのリテイナーフィーを提案する仲介業もあります。このリテイナーフィーを無料とする仲介業もありますが、それは、その買収話をまとめるのが比較的簡単(自信がある)という場合です。
仲介業は、企業買収が成立したとき、買収価格に応じて、成功報酬を得るのが一般的です。このときの計算方法には様々なものがありますが、広く参照されるのがレーマン方式と呼ばれる、買収価格に連動する計算方法です(最低価格が設定されるのが一般的です)。しかしレーマン方式は、あくまでも交渉のスタートポイントだと思ってください。ここから、どこまでディスカウントしてくれるかが、介護事業者の視点からすれば、非常に重要になります。繰り返しになりますが、大幅にディスカウントしてくれる仲介業が良いというわけでもありません。企業買収は相場があってないような世界なので、一概には言えないのが難しいところです。しかし、レーマン方式以上の成功報酬を求めてくるところは、避けたほうがよい場合が多いと思われます。
成功報酬の支払いのタイミングは(1)セルサイド(会社を得る側)とバイサイド(会社を買う側)が基本合意書に調印した後(2)基本合意を経て最終合意に調印された後、の2つであることが一般的です(調印後10〜20日以内の支払いといった条件もつくことが一般的です)。当然ですが、成功報酬の支払いは、できるだけ最終合意の後にすべきです。基本合意書に調印がなされたにも関わらず、そこから話が進まなくなってしまう可能性もゼロではありません(たとえば、買われることになった企業から従業員が一斉に辞めてしまうなど)。よくあるのは、基本合意時で10〜20%、最終合意時で80〜90%といったイメージの配分ですが、先の成功報酬の計算方法で大きなディスカウントがある場合、支払い条件で譲歩したり、基本合意時に支払う部分が大きくなることもあります。
細かいことは全部任せるので、よくわからないという場合もあるでしょう。それでも、たった1つだけは、絶対に注意してもらいたいことがあります。それは、とにかく急がないということです。仲介業は、売買が成立しないと入金がないため、話がスタートしたら、なにかと急ぐ傾向があるのは否めません。それは業態上、仕方がないことです。
どのみち、急いで会社を売らなければならない状態は最悪です。もはやお金がないので、交渉をしている余裕もありません。誰でもよいから、すぐに買って欲しいという状態では、一生懸命育ててきた会社であっても、安く買い叩かれてしまいます。ですから、少しでも会社を売る可能性があるなら、早めに仲介業に相談したほうがよいでしょう。
これに対して、急いで会社を買うというのは、あまり考えにくいケースです。仲介業は「こんな良い会社は、なかなか買えませんよ」と言うかもしれませんが、本当に良い会社であれば、めったに売りに出ないはずです。仲介業に売り急いでいるような印象が少しでもあれば、警戒したほうがよいでしょう。
企業買収が起こるのは、その後、2つの会社が一緒になると、利用者(顧客)に対してより優れた価値が出せるという見込みがあるからです。ですから、仲介業とのやりとりは、企業買収のほんのスタートにすぎません。買収後に仲介業と別れ、2つの会社が一緒になってからが本丸(PMI / Post Merger Integration)です。
仲介業の中には、このPMIについてもコンサルティングをしてくれるところもあります。とはいえ、実際に2つの会社を1つにしていくのは、とにかく自分たち自身です。そして、このPMIというのは、非常に難しいプロセスであることを認識しておく必要があります。
科学的根拠は希薄なのですが、一緒になる2つの会社が同規模というケースが、もっともPMIが難しいようです。実際に、売られた、買われたという印象のない同規模の会社の合併といったケースも多数あります。しかしその場合は、熾烈な主導権争いが発生するのが常です。そして主導権争いは、企業価値を大幅に低下させます。
これに対して、大きな会社が小さな会社を飲み込む場合は、混乱が少なく、PMIも比較的スムーズなことが多いように感じます。売られる側の会社を信頼してきた利用者(顧客)や従業員からしても、より大きな会社と一緒になることは安定を意味するので、それほど悪い話にはなりにくいからでしょう。
※参考文献
・日本経済新聞, 『ブティックスの新村社長「介護のM&A 伸び代100倍」』, 2018年4月3日
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