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日本の人口減少にともなって、かつて開発された土地を自然に戻す活動、すなわち逆開発が必要になってきています。具体的には、ダムや橋、トンネルや道路といった過去の社会インフラを、人が住まなくなった地域より、順次撤去していくということです。
社会インフラが撤去されてしまうと生活に困る人も出てくるわけですが、同時に、戻ってきた自然を観光資源として活用するという事例も出てきています。社会インフラの維持費を手放して、その代わり、観光収入を得られるようになれば、衰退したと言われる地域も、むしろ魅力を増す可能性さえあるわけです。
国としても、公共事業として、新たな社会インフラを構築していくことで雇用と税収を生み出すという麻薬から脱却することができます。公共事業として、逆開発を進めることで、雇用と税収を生み出せる可能性が出てきたからです。結果として、美しい自然が取り戻され、観光資源が増えることにもつながります。
地方に旅行にいって、護岸整備されている川をみて、がっかりした経験のある人も多いでしょう。コンクリートで作られた、木に似せたガード柵なども、せっかくの景観を台無しにしてしまいます。宿に行けば、風情のある街並みではなく、廃墟化したビルとシャッター街がお出迎えともなれば、観光客は決してリピートしません。
こうした、過去の社会インフラは、そのままにしておくだけでも費用がかかり、災害時には危険でもあります。それらをただ撤去するのではなく、自然に戻すというコンセプトを大切にして、美しく逆開発するという発想が必要です。以下、読売新聞の記事(2018年3月31日)より、一部引用します(段落位置のみKAIGO LABにて改変)。
熊本県八代市の県営荒瀬ダムの撤去工事が今月下旬に完了した。本格的なコンクリートダムの撤去は全国初となる。悪臭や水質悪化の要因となっていたダム湖が姿を消して球磨川に清流が戻り、生物の種類も増えた。地元住民らは「ダム撤去の町」を掲げて地域おこしに乗り出した。(中略)
ダム近くの調査地点では昨冬、カゲロウやカワゲラなど54種の生き物が確認され、04年度の調査時の約5倍になった。同室の担当者も「多様な生物を育む環境が整ってきた」と語る。川に流れが生まれ、瀬や砂州が姿を現した。アユの産卵に適した河床も増えた。下村さんは「豊かな球磨川を次世代に引き継いでいきたい」と話す。
ダム撤去で土砂が流れ出し、河口域の干潟にも変化が起きた。干潟で生物を観察する環境カウンセラーの女性(68)によると、カニの仲間「ハクセンシオマネキ」など、希少生物の生息域も広がっているという。女性は「撤去の効果は大きい」と歓迎する。(後略)
自然が戻り、観光資源が増えることはよいことです。しかしそれは、そこで暮らす人々の生活圏が変化することを意味するでしょう。世界の自然を活かした観光地のことを思い浮かべてください。人口の少ない小さな街があって、そこの小さなホテルを拠点としつつ、自然の中で遊ぶのが普通ではないでしょうか。
そうした人口の小さな街は、いわゆるコンパクトシティとしてまとまっています。コンパクトシティとは、街が面積的に広く外側に広がっていくことを抑制しつつ、街の中心部に人々が暮らせるようなインフラが整えられている街のことです。これは、近代の日本の発展とは真逆の方向にあります。
近代の日本の場合は、街の中心部は巨大なショッピングセンターや飲食店があって、人々は郊外に暮らすという方向(郊外化)で開発が進みました。しかし、それは車社会化を意味し、トンネル、橋や道路の建設などに巨額の資金を投入しなければなりませんでした。同時に、自然はことごとく破壊されることになったのです。
日本の逆開発は、こうしたコンパクトシティの開発とセットで進まなければならないでしょう。その中心部には、CCRC構想に近い、在宅介護を前提とした街づくりが必要になるはずです。介護職が遠くまでいかなくても、中心部内の短距離を移動しながら、充実した介護サービスを届けているようなイメージです。ここに向けた、秩序ある逆開発が必要なのです。
※参考文献
・読売新聞, 『「日本初のダム撤去」完了、悪臭減って清流戻る』, 2018年3月31日
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