閉じる

介護人材育成、日中が協力体制の構築へ

介護人材育成、日中が協力体制の構築へ

高齢化が進む中国の事情

中国では、37年にも渡って一人っ子政策が続けられてきました。これが撤廃されたのは2016年のことです。一人っ子政策は、4人の高齢者に2人の子供と1人の孫という社会を生み出します。この数字をとって、中国の高齢化は特に「421社会」として問題視されます。

かつての中国では、子供が高齢者の面倒をみるのが当たり前でした。ですから中国には制度としての高齢者福祉がほとんどないのです。中国では、ここに、急速な経済発展による高齢者の資産の目減りと、孫の教育コストの急騰がかぶさってきました。

現代の中国大都市部では、子供が大学を卒業するまでに4,000万円もの教育費がかかるのです。日本の場合、幼稚園から全て私立でも2,500万円程度です。もちろん塾にもお金がかかったりしますから、全て私立の場合は日本でも中国大都市部に匹敵する費用がかかります。

ただ、中国の場合は、高齢者が蓄えてきた資産は、急速な経済発展によるインフレで大幅に目減りしています。さらに孫の教育費として高齢者も資産をそこにつぎ込んでいることも多いのです。孫は立派になったかもしれませんが、その両親と高齢者には、もはや資産が残されていないケースが散見されます。

高度な教育を受けた孫は、中国大都市部で、待遇のよい仕事についているかもしれません。とはいえ、中国の中間層の平均年収は800万円程度にすぎません。そして中国大都市部の物価は、もはや日本よりも高いくらいです。いかに孫が立派でも、この年収と物価で、4人の高齢者の生計を維持するのは困難です。

中国に残された高齢者福祉の可能性

中国では、大都市部と農村部で100倍もの年収格差があると言われます。中国に残されている高齢者福祉の可能性は、農村部の人件費の安い人材を、高齢者の介護に従事させることにしかありません。ですから今の中国は、なんとか孫1人の収入でまかなえる介護を、4人の高齢者に届けようと努力しています。

しかし、介護の仕事というのは、一般に信じられている以上に高度な専門性が求められるものなのです。頭数だけはそろえることができたとしても、それで高齢者福祉が成立するはずもありません。そこで中国が目をつけはじめているのが、日本の介護現場の人材育成の力です。

中国は、介護人材の育成をしないとなりません。そして日本では介護職の不足が深刻化してきています。すでに東京都と愛知県では、介護職の有効求人倍率が5倍を超えてしまっているくらいです。ここにwin-winの関係を見出そうとする動きがあります。以下、日テレNEWS24の報道(2018年3月5日)より、一部引用します。

深刻な人手不足が問題となっている高齢者介護に関わる人材を育成するため、日本と中国の団体が協力していく方針で合意した。(中略)中国民政省の監督下にある中国老齢事業発展基金会との間で覚書に署名し、今後、介護人材の育成を巡って提携していくことで合意した。

日中介護プログラム実習委員会・伊藤重来委員長「中国より優秀な実習生を日本に受け入れさせていただいて、日本の介護技術を学んでいただいて、中国にもどり中国介護の発展に寄与していただきたいと強く考えています」(後略)

施設介護から在宅介護へのフロー

未経験の人材を介護の世界になじませるには、介護施設(老人ホーム)での職務経験が欠かせません。もちろん例外も多数ありますが、チームで1人の介護を行う介護施設には、未経験の人材が、先輩の介護を横で見る機会があります。そして未経験なら未経験なりに、仕事があります。

しかし在宅介護はそういうわけには行きません。在宅介護では、1人で1人以上の高齢者の介護をすることになるからです。医療と介護の幅広い知識と経験のみならず、さらに相手の持病や飲み込む力などを考慮した高度な調理技術など、マルチなスキルが求められるのです。

介護施設の運営には莫大な公費がかかりますから、高齢者福祉の最終形態は在宅介護です。実際に先進国の多くは在宅介護のほうに舵を切っています。しかし、先に述べたような背景から、在宅介護というのは、いきなり到達することができない形態なのです。

今後は、先のニュースにもあったとおり、中国からの人材が多数日本に入ってくるでしょう。その現場になるのは、介護施設がメインのはずです。そこから、約240万人にもなる日本の在留中国人に向けた在宅介護も出てくるかもしれません。しかし、本当に在宅介護ができるほど熟練した中国人の介護職は、帰国する可能性も高くなります。

この流れは、日本人の介護職を、介護施設から在宅介護へと押し出していくことになるでしょう。それが良いことなのか、悪いことなのかはわかりません。この日中の協力体制に関する問題を挙げたらきりがないほど、これは簡単な道ではありません。しかし、この協力体制がうまくいかなければ、日中共に大変なことになります。

※参考文献
・日テレNEWS24, 『日中が協力へ…高齢者介護に関わる人材育成』, 2018年3月5日
・NHK BS1, 『中国「421社会」の衝撃 超高齢化で進む“家族崩壊”』, 2017年5月30日

KAIGOLABの最新情報をお届けします。

この記事についてのタグリスト

ビジネスパーソンが介護離職をしてはいけないこれだけの理由