KAIGOLABの最新情報をお届けします。
睡眠時間は、私たち人間の人生の3分の1にもなります。これは、人生を80年とすれば、そのうちの約27年は眠っているという計算です。この睡眠がうまく行かないと、様々な問題につながります。以下、論文(小曽根, 2012年)をベースに、睡眠障害の基本的なことについてまとめてみます。
高齢者(60歳以上)は、その約3割までもが、何らかの睡眠障害をもっているそうです(高齢者も含めた一般には約2割と言われる)。不眠症はもちろんなのですが、メディアを賑わせている睡眠時無呼吸症候群や、むずむず脚症候群といったものも、こうした睡眠障害に含まれています。
高齢者の睡眠障害の影響としては(1)日中の過度の眠気(2)認知機能障害(3)身体疾患や精神疾患の発症や悪化(4)夜間の転倒(5)睡眠薬の過剰使用、などが知られています。これらはどれも結果として、QOL(Quality OF Life)の低下に直結してしまう可能性のあるものです。
以下、代表的な睡眠障害である不眠症、睡眠時無呼吸症候群、むずむず脚症候群の3つについて、簡単にまとめておきます。あくまでも参考程度であり、こうした症状が疑われる場合は、かならず、医師などの専門家に相談するようにしてください。
睡眠時間と死亡率には相関があることがわかっています。そして、高齢者の29.5%が不眠症を自覚しています(一般平均は21.4%)。不眠症の中でも特に、中途覚醒(寝ている途中で目覚めてしまうこと)と早朝覚醒(朝早く目覚めてしまう)の頻度は、若年者の約2倍にもなります。
この背景から、睡眠薬の常用(週3回以上の使用/過去1ヶ月間)者の割合は、年齢が上がるとともに増加し、80歳以上の女性では21.8%にもなります。睡眠薬の過剰使用は、長期間使用していると効かなくなること、依存症になること、認知症リスクが高まること、転倒リスクが高まることなどにつながることが知られています。
高齢者が不眠症に悩まされる主な理由は、なんらかの病気を持っているからだと考えられています。そうした病気によって頻尿でトイレに起きてしまうとか、痛みを感じて起きてしまうといったことが発生します。逆に、健康な高齢者の場合は、不眠症の発症率が極端に低くなることも知られています。
睡眠時無呼吸症候群(Sleep Apnea Syndrome:SAS)とは、睡眠中に10秒以上呼吸が止まってしまうことが、頻繁に起こるという疾患です。一般には1〜4%が、この睡眠時無呼吸症候群と診断されますが、65歳以上の高齢者の場合、男性の28%、女性の20%がこれに該当します(AHI指数が5以上)。
高齢者の睡眠時無呼吸症候群は、なかなか本人がそれに気づかないという点が難しいところです。いびきは高齢者になると小さくなりますし、さらに独居だったりすると、本人以外に、それを確認できる人がいなくなります。
この治療には肥満の改善、寝るときの体位の指導、飲んでいる薬の見直し、アルコール摂取量を減らすといったことがなされます。それでも改善しない場合や重症と診断された場合は、経鼻的持続陽圧呼吸療法(CPAP療法)と呼ばれる、鼻にマスクをつけて空気を送り込む方法が取られることが一般的です。
むずむず脚症候群は、安静にしているとき、足に異常な感覚(ムズムズ感、虫がはうような感覚、灼熱感など)が生じるというものです。高齢者に多くみられ、年齢が高まると発症率も上昇することが知られています。
この異常な感覚は、足を強く動かすとおさまるため、むずむず脚症候群に悩まされている人は、頻繁に足を動かしたり、歩き回ったりします。「とてもじっとしていられない衝動」がそして、この症状は夕方から夜間に悪化するため、眠れなくなったり、睡眠の途中に起きてしまう原因にもなります。
対処としては、むずむず脚症候群の原因となっている病気の治療や、睡眠環境の改善などもありますが、症状の重さに応じて薬(クロナゼバム, 中枢ドパミン作動薬, オピオイド製剤)による治療が行われることもあります。
認知症は、なんらかの脳内の病気が原因で起こる症状です。認知症の中でも特にアルツハイマー病を原因とする認知症は、睡眠障害を持っている割合が高く、報告によれば、アルツハイマー型認知症の患者の44%が睡眠障害を有しているそうです。
認知症が悪化すると、日中に眠気を感じることが多くなることも知られています。また、認知症の症状の一つであるアパシー(興味や意欲の減退)が、睡眠障害を悪化させる可能性も指摘されています。
こうした認知症の睡眠障害に対しては、残念ですが、これといって確立された薬物療法はないようです。睡眠薬を使うと、認知症の症状が悪化してしまう可能性が指摘されているからです。重症の場合は薬が使われることもあるようですが、医師への相談なしに市販の薬などを使うことは避けてください。
※参考文献
・小曽根 基裕, et al., 『高齢者の不眠』, 日本老年医学会雑誌, 49巻3号, 267―275, 2012年
・木村 哲也, 『「睡眠薬に頼る人」に伝えたい身体へのリスク』, 東洋経済, 2016年7月30日
・北海道薬剤師会, 『レストレスレッグズ(むずむず脚)症候群』, 2009年9月
KAIGOLABの最新情報をお届けします。