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アルツハイマー病、根本治療薬の開発がうまく行っていない

アルツハイマー病、根本治療薬の開発がうまく行っていない

アルツハイマー病の原因とされてきた物質が・・・

認知症というと、そうした病気があるような気がするかもしれません。しかし認知症は、あくまでも症状に対してつけられた名前であって、病気そのものではありません。認知症の原因となる病気には多数のものがあり、それぞれに、治療のための研究が進んでいます。

そうした中でも、アルツハイマー病は、認知症の原因の6割以上を占めるとも言われるものです。このアルツハイマー病になる人は、認知症の症状が表れる20年ほど前から、脳内にアミロイドβ(アミロイド・ベータ)と呼ばれるたんぱく質が蓄積することがわかっていました。

このためアミロイドβを除去するための薬が、様々なところで開発されてきたのです。しかし、残念なことに、アミロイドβを減らしても、認知症の症状が改善しないということがわかってきました。以下、日本経済新聞の記事(2018年1月16日)より、一部引用します。

アルツハイマー病治療薬を開発するうえで有力な戦略とされてきた「アミロイド仮説」に対する疑念が表面化している。脳での有害なアミロイド(アミロイド・ベータ)沈着を妨げる働きがあるとされた治療薬候補が治験で十分な結果を残せなかったためだ。アミロイド仮説は死んだのだろうか。

米製薬大手のイーライ・リリーは昨年、アルツハイマー病治療薬の有力候補とされてきた「ソラネズマブ」の承認申請を見送ることを決めた。2千人以上の患者を対象にした臨床第3相試験で期待されたほど大きな認知機能の改善効果がみられなかったためだ。(中略)

12年には米製薬大手のファイザーとジョンソン・エンド・ジョンソンも治療薬として開発を進めていた「バピネオズマブ」の第3相試験に失敗し開発継続を断念している。この薬も「ソラネズマブ」と効き方の仕組みは違うものの、基本的にアミロイド沈着を妨げることを狙っていた。(後略)

世界中の研究者が影響を受けてしまう

注意したいのは、まだ、アミロイドβは、本当に認知症と関係ないのかには、大いに議論が残っているということです。特に、十分な早期にアミロイドβを除去すれば、認知症の予防には有効であるという考え方は、まだ広く信じられている仮説です。

それにしても、アミロイドβを減らしても、認知症の根本治療につながらないというのは、これまでの研究の多くが無駄になってしまうということです。もちろん、こうした研究の過程で生まれた成果は、いつかまたどこかで、違った形で人類の発展に寄与するものではありますが。

しかし、根本治療薬の開発に期待をしてきた人々はもちろん、その研究者や、研究に投資をしてきた企業にとっては、厳しい現実です。もし、予防にも無効ということになってしまえば、緑茶に含まれるポリフェノールが有効といった仮説まで崩れてしまいます。そうなると、製薬企業のみならず、飲料メーカーなどの周辺産業も打撃を受けます。

こうした疑念が恐ろしいのは、埋蔵金探しの恐ろしさとよく似ています。埋蔵金というのは「あと1m掘ったら出るかもしれない」という疑念が、それを求める人を苦しめるのです。とにかくやめどころを間違うと、人生を棒にふることになります。その意味では、もはや、ギャンブルです。

特に上場企業(上場している株式会社)の場合、こうしたギャンブルに乗ることは株主が嫌がるものです。そうなると、上場企業の多くは、アミロイドβの除去という方向からは撤退していく可能性が高まります。もしかしたら、予防としては有効である可能性が残されていても、です。

予防ではなく根本治療の考え直しに向かうか?

もちろん、予防という方向では、まだ研究は進んでいくでしょう。しかし、根本治療については、アミロイドβを除去するという方向ではなく、全く別のアプローチが必要になりそうです。ただ、製薬企業などでアルツハイマー病の根本治療を考えてきた研究者は、信頼を失っており、そこに、大きな予算がつくとは考えにくいのです。

こうした逆風下でも、あきらめずに研究を続ける研究者もいます。私たちは、社会として、そうした研究者を応援していかないとなりません。同時に、そこに十分な市場と可能性が期待されない限り、根本治療の開発が進められないという資本主義社会のありかたにも問題があります。

アルツハイマー病はまだ、それに苦しんでいる人の数が多いため、市場があるとみなされ、いずれは根本治療もできてくるはずです。しかし、奇病と言われるような、患者の数が少ない病気については、そもそも研究者も少ないという状況を、この資本主義社会はずっと無視してきたのです。

※参考文献
・日本経済新聞, 『アルツハイマー原因物質に疑念? 認知症治療の最前線』, 2018年1月16日

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