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介護事業者向け経営支援サービス「カイポケ」を提供している株式会社エス・エム・エス(代表取締役社長:後藤夏樹/東証一部)が「介護現場における働き方改革に関する実態調査」を実施(サンプル数304)し、結果を公開しています(2018年1月11日プレスリリース)。
この意識調査の中で注目したい結論としては(1)介護業界の働き方改革は92.4%が必要と回答(2)実際になんらかのアクションを起こしているのは66.4%(3)改革の効果があったとするのは73.3%、の3つがあります。働き方改革が必要であり、それを実施すれば効果があるということです。
では、どうして効果があるのに、実際にアクションが起こせていないところもあるのでしょう。この原因はかなり分散されているのですが、人材不足による取り組みへのリソース不足(37.7%)と、現状を変えようとする現場職員の意識の低さ(29.9%)がトップ2になっています。
介護業界の働き方改革は必要で、効果もあります。しかしこの実施には、人材の人数も意識も足りないというのが現状なのでしょう。だからといって、他の業界のように社外の人事コンサルタントに、働き方改革をお願いするだけの経済的な体力は(一部大手をのぞいた)介護業界にはありません。
働き方改革が進めば、働きやすい職場ができます。働きやすい職場には、人材が集まりやすく、辞めにくいという特徴もあります。しかし、働き方改革をするための人材も意識も不足しているというのは、なんとも嫌な「ニワトリとタマゴ」です。先に働き方改革があって、そのあと、こうした人材不足が改善するからです。
どこの介護事業者も、人材の人数は(すぐには)どうにもなりません。しかし、人材の意識であれば、もしかしたらどうにかなるかもしれません。ここで参考にしたいのが、IT企業SCSKの事例です。以下、日経ビジネスの記事(2015年6月16日)より、一部引用します。
あなた方もご存じのように、IT企業といえばブラック企業の代表選手。なのに、今のSCSKの残業時間は平均で月18時間や。1日当たり30分強ってことは、ほとんど残業してない感覚だよ。(中略)
そもそも、労働時間のコントロールが対象になっている人たちは、そんなに年も取ってない。まだ収入が少なくて、家族もできて、生活がしんどい。教育にもお金がいるし、ローンもあるわな。(中略)
だからウチは、50時間の残業を20時間に短縮できたら、30時間の残業代は全部翌年のボーナスで戻すと言った。だから、収入、経済上の心配は一切するなと。(中略)
やっぱり従業員が自らの勤務や業務、時間管理のあり方、すなわち効率的な業務のこなし方をしようという気持ちにさせない限り、本質的に残業なんて減らない。これは、もうあまねくどこの産業もそうだと僕は思う。(後略)
経営者による「長時間労働の是正」という言葉は、従業員からすれば「人件費の抑制」にしか聞こえないものです。だからこそ、経営者として、みんなが働いていて幸せになれる企業を作りたいという気持ちを伝える必要があるでしょう。
しかし、ただでさえ待遇の悪い介護業界のことです。これは、言葉ではなくて、行動で伝えないと、かえって人材が流出してしまう可能性もあります。そもそも、過去の実績と比較して、本当の意味で残業が減らせているなら、その分だけ時給が上がってしかるべきです。
働き方改革によって、残業代を抑制しようという気持ちが少しでも見えると、従業員は乗ってきません。人材不足で、人材の人数とスキルの両面で課題があるのなら、働き方改革は、利益の源泉として考えるのではなく、まずは、従業員のためだけに考えて動いてみることが有効ではないでしょうか。
もちろん、こうした戦略は、いきなり全社に導入するには危険すぎます。同時に、だからこそ、大手には導入しにくい戦略ということにもなります。小さな介護事業者こそ、少しずつ、テストを繰り返しながらの実装を考えてみてもよい戦略ではないでしょうか。
※参考文献
・株式会社エス・エム・エス, 『介護の働き方改革、アクションを起こしている介護事業者は約6割』, 2018年1月11日
・日経ビジネス, 『残業しない人に残業代を払う会社』, 2015年6月16日
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