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(また)介護事業者の倒産件数が過去最多に?

(また)介護事業者の倒産件数が過去最多に・・・

介護事業の経営は非常に困難

介護事業における売上は、国の税金(正確には税金+介護保険料)に依存しています。要介護者に届けた介護サービスに応じて、定められた介護報酬が受け取れるという仕組みです。こうした背景もあって、介護事業者の売上は、労働集約型であって、そうそう上がるものではありません。

ただ、この介護報酬は、来年の改正で0.54%の引き上げの方向で調整に入っています。しかし、そもそも日本の物価は、2017年10月31日時点での数字では、前年比で0.8%上昇しているのです(Bloomberg, 2017年)。介護報酬が少し改善されたと言っても、それは物価以下の上昇率にすぎません。

これに対して、介護事業におけるコストの大部分は人件費(従業員の給与)です。特養や老健、グループホームのように、介護施設そのもののコストが高い施設介護においても、人件費はコストの55~60%を占めます。施設コストが軽い、訪問介護などの場合は、なんとコストの70~90%が人件費になります。

このため、介護事業の経営においては、ほとんど変わらない売上に対して、人件費を抑制することができなければ、利益を確保できないという構造になっています。そうして人件費が抑制されてきた結果が、全63業界中ダントツの最下位という、介護業界の待遇です。

人件費を抑制しても儲からない構造

では、人件費を抑制してきた介護事業者は、ウハウハだったのかというと、むしろその逆です。毎年のように、年末年始には、介護事業者の倒産件数が過去最多というニュースが入ってきます。そしれそれは、この年末にも報道されました。以下、NHK NEWS WEBの記事(2017年12月29日)より、一部引用します。

ことし倒産した介護事業者は先月末までに全国で98件に上り、過去最多のペースで増えていることが分かり、民間の信用調査会社は「2年前に介護報酬が大幅に引き下げられたことが影響しているのではないか」と分析しています。

民間の信用調査会社、「東京商工リサーチ」によりますと、ことし1月から先月末までに介護事業者の倒産件数は全国で98件に上り、負債総額は137億円となっています。倒産の件数は去年の同じ時期より1件多く、過去最多のペースで増加しています。(後略)

介護事業者は、人件費を全業界中でも最悪というレベルで絞っても、利益が出にくい構造なのです。その根本は、介護報酬が安すぎることにあるのですが、来年の改正では、わずかに0.54%しか上がらないのです。一応、勤続年数10年以上の介護福祉士には月額8万円の報酬改定が予定されてはいますが、焼け石に水です。

それでも、きちんと利益を出している介護事業者もあります。しかし、そうした事業者に共通するのは(1)医療グループに属しておりトータルで儲けている(2)土地やビルを昔から所有しており地代家賃が極端に軽い(3)地域に競合がなく顧客獲得が容易、といった特徴です。新規参入の事業者では真似ができません。

どうすればいいのか?

これから要介護者はどんどん増えていきます。それに合わせて、新規の介護事業者も増えていかなければ、日本の介護は破綻してしまいます。しかし、先のようなビジネス環境においては、そうした新規参入者が、きちんと儲けていくことは非常に困難です。

根本的な解決となるのは、日本が、介護の重要性を再認識し、介護のための予算を増やすことです。その予算から、介護報酬を増やしたり、人件費の助成金などを捻出することで、新規の介護事業者が、きちんと儲けを出していける構造にしないとなりません。

ただ、こうした根本的な解決は、高齢者が道端でゴロゴロ死んでいるような状態が日常化しないと実現しないでしょう。介護に限ったことではありませんが、人間は、自分自身に目に見える形で危機が訪れないと、行動を変えようとはしないからです。

どのみち、こうした根本的な解決は国任せのことであり、介護事業者の自助努力ではどうにもなりません。介護事業者として自分たちでできるのは保険外サービスの拡充(混合介護など)だけです。つまり、国にばかり売上を依存するのではなく、要介護者(利用者)や企業などからの売上を創造することです。

新年早々、介護事業者の倒産件数が(おおかたの予想通り)過去最多になりそうというニュースになってしまうのは残念です。ただ、嘆いてばかりでは、日本の介護は本当に崩壊してしまいます。なんとか、業界をあげて保険外サービスを拡充し、介護職の待遇を改善しながら、強い介護業界を作り上げていかなければなりません。

※参考文献
・Bloomberg, 『物価上昇でもデフレ脱却宣言しない日本-カギ握る4経済指標の行方』, 2017年12月7日
・NHK NEWS WEB, 『介護事業者の倒産 過去最多のペース』, 2017年12月29日

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