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2007年、愛知県で、認知症の夫(当時91歳, 要介護4)が自宅からいなくなり、電車にはねられて死亡するという事件がありました。これによる損害を受けたJR東海は、損害賠償を求めて、妻(当時85歳, 要介護1)を訴えたのです。
この裁判の一審では、事故処理のための費用である720万円の支払いが家族に命じられました。続く二審では、JR東海のほうにも安全配慮義務があるとされ、賠償額は320万円に減額されています。しかし最高裁は家族の賠償責任を認めず、家族側の勝訴として終わっています。
結果としては、家族側の勝訴となりましたが、この事件は、社会に大きな問題を突きつけました。認知症の人を介護する家族は、その認知症の人が起こしてしまった事故の損害賠償責任を負う可能性が出てきたからです。誰もが、こうした事件に巻き込まれてしまい、損害賠償をすることになるかもしれないのです。
そうした中、神戸市が、全国に先駆けて、こうした事件の救済制度を提案しました。認知症の人がなんらかの事故を起こして損害賠償が求められた場合、公費でそれをカバーしようというのです。以下、産経新聞の記事(2017年11月18日)より、一部引用します(改行位置のみ、KAIGO LAB にて修正)。
認知症と診断された高齢者らが起こした交通事故などの被害賠償をめぐり、神戸市は、公費から給付金を出す全国初の救済制度を導入する方針を決め、18日の有識者会議で制度案を含む条例案を報告した。市は条例案を来年2月にも市議会に提出し、平成31年度からの制度導入を目指す。
一方、多額の損害賠償請求が見込まれる鉄道事故は、対象に含めるかどうかさらに検討を進める。市によると、制度案では加害者か被害者のいずれかが市民で、認知症患者による交通事故や暴力行為などで第三者にけがをさせた場合などを想定。
委員会を新設し、救済対象となる事故や給付額を判定する。給付金は公費から捻出し、上限額は最高で約3千万円を支給する犯罪被害給付制度などを参考に検討する。(後略)
今現在、認知症に苦しむ人は、推定で500万人程度になります。これはしかし、2025年までには700万人になります。さらに軽度認知障害(MCI)の人まで合わせたら、1,300万人という推定もあるのです。今後は、誰もが家族の認知症に苦しみ、場合によっては損害賠償を請求される事態にもなりかねないのです。
こうしたリスクが、ほとんど全ての人に降りかかっているにも関わらず、救済措置は、いまのところ神戸市でしか提案されていないわけです。それで、本当に良いのでしょうか。これは、自治体レベルの議論でどうにかなる問題なのでしょうか。
このままでは、暮らしている自治体がどこなのかという「運」によって、損害賠償によって破産してしまうところもあれば、救済されるところもあるということになります。しかしそれで、国民は納得できるとは思えないのです。
やはりどう考えても、これは、国レベルで議論をしながらルールを統一していく必要のある問題です。そして、損害を受けたほうも、損害を出してしまったほうも、どちらも救済されるような制度が必要です。
※参考文献
・産経新聞, 『認知症高齢者の事故に公費給付金 神戸市、全国初の救済制度導入へ』, 2017年11月18日
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