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筑波大学がヘルスサービス開発研究センターを立ち上げました。これは、医療統計データサービスを行っている株式会社日本医療データセンター(JMDC)が資金を出している産学連携の研究拠点になります。以下、朝日新聞の記事(2017年7月13日)の記事より、一部引用します。
高齢化社会を迎えて、筑波大学(つくば市)は医療や介護サービスに特化した全国初の研究拠点「ヘルスサービス開発研究センター」を設置した。国が保管する介護報酬明細書などのビッグデータの分析から、市町村へ効果的な介護保険政策を提言したり、介護施設にサービス向上策を提案したりする。
筑波大によると、ヘルスサービスとは医療や看護、保健、介護、福祉などを、ひとつながりのサービスととらえたもの。その質の向上を目指して、海外ではすでに多くの研究拠点があるが、日本では筑波大が初めてという。(中略)
田宮教授は国の補助事業として全国約450万人分の介護報酬明細書の分析を始めており、センターの「二次データ基盤部門」に統計解析などの専門家を置く。分析によって、市町村ごとに在宅ケアがどう違うかや、要介護度が悪化しない施設にはどんな特徴があるのか、「要介護5」でも在宅で暮らすには何が必要か、などを探る。(後略)
国立大学である筑波大学が公的な情報にアクセスし、それを解析するのは問題ないでしょう。しかし、民間企業がそれに資金を提供し、その解析結果を独占的に利用するとなると、少し状況がややこしくなります。
この朝日新聞によるニュースだけではよくわからないところではあります。しかし、筑波大学がヘルスサービス開発研究センターによって生み出されたノウハウは、資金を提供する民間企業が独占すると考えたほうが自然でしょう。
もちろん、そうした資金を提供するのは、企業にとっては正当な経営戦略です。そこに資金が投入される結果として救われる人々(顧客)も出てくるのですから、大筋では問題はないはずです。ただ、もし、ここで生み出されるノウハウが長期に渡って独占されてしまい、それに高値がつけられ続けるとしたら、困る人も出てきます。
特許の場合であれば、その権利(排他独占権)は20年で失効します。特許が失効したあとであれば、開発された技術は、誰でもコピーして構わない状態になります。ですから20年間は、その技術は、特定の企業が独占できても、20年後には、誰もが手軽に入手できるものになっていくのです。
しかし、特許ではなくノウハウの場合、秘密にしておけば、いつまでも秘密のままです。すると、最悪の場合は、特定の企業が、そのノウハウをいつまでも独占し、高値で売るという環境が生まれかねないのです。
日本の財政は悪化し続けています。社会福祉のための財源もまた、今後、ますます逼迫していくことは間違いありません。そうした背景から、今後はますます、今回の筑波大学のケースのように、民間企業の資金によって公的なサービスの開発が進められるようになっていくでしょう。
こうしたとき、どうしても注意してもらいたいのは、そこで得られたノウハウが過度に独占されすぎないようにすることです。もしかしたら、新薬のように、特許として出願されるべきところかもしれません。しかしもしこれが、秘密として長期に独占された場合、貧富の格差を広げてしまうことにもつながるでしょう。
民間企業による社会福祉領域への進出は、今後、まちがいなく増えていきます。だからこそ、国や自治体は、社会と民間企業の双方が正当な利益を享受するためのガイドラインを整備しつつ、その運用については、細心の注意をはらっていく必要があります。
※参考文献
・筑波大学, 『ヘルスサービス開発研究センターの開所式を開催』, 2017年7月6日
・朝日新聞, 『筑波大に医療・介護サービスの研究拠点』, 2017年7月13日
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