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介護業界は、深刻な人手不足にあります。そのせいで、地方の人口流出が加速(移住勧奨)したり、入居待ちになっている特別養護老人ホームに空き部屋が出始めているのです。
介護業界に人材が集まらないのは、仕事のストレスが大きいからだという指摘もあります。確かにそれもあるかもしれません。しかし過去記事『介護職のなり手がいない真の原因は、ストレスではない』でも述べたとおり、根源的には、手取りで20万円にも満たないケースが多発しているという待遇の悪さにこそ原因があります。
日本の学生たちの就職先人気でトップにくるのは、待遇や福利厚生が充実している公務員です。デンマークのように、介護職を公務員化してしまえば、介護職の人材不足は一気に解消してしまうでしょう。とはいえ、財源の問題から、具体的にこれを進めるのは簡単ではないことは理解できます。
ただ、こうした本質的な解決策を置き去りして、小手先の改善策を重ねていては、返って大変なことになってしまいます。時間稼ぎも大事だとは思いますが、こうした小手先の解決策によって、他の問題が生まれてしまうとするなら、本当にどうにかしないとなりません。
そうした中、介護業界への入り口のハードルを下げるという改善策が運用されることになりそうです。なんとなく良いことのように思われますが、意図しない問題が生まれてしまう可能性もあります。以下、読売新聞の記事(2017年7月10日)より、一部引用します。
介護現場の深刻な人手不足を補うため、厚生労働省は、介護の経験がない人を対象にした全国共通の入門研修制度を創設する方針を決めた。
一部の自治体で独自の研修を実施しているが、内容にばらつきがあり、統一した制度を求める声が出ていたことに対応した。定年後の高齢者や子育てが一段落した女性など幅広く人材を集める。8月中に社会保障審議会の専門委員会に制度案を示し、2018年度の導入を目指す。(中略)
入門研修は、初任者研修と無資格者の間に位置づけられ、初任者研修(130時間)よりも短い30~40時間程度を検討している。介護保険の概要、着替えやトイレへの移動の介助、緊急時の対応など、介護に関する最低限の知識と技術を学ぶ。試験はない。(中略)
仕事が大変な割に給与が安いとされる介護の現場は、慢性的に人手が不足。団塊の世代が全て75歳以上になる25年度には、約38万人足りなくなると推計されている。厚労省は入門研修により、高齢者や女性らが介護労働に参加するハードルを下げ、人手不足の解消を目指す。(後略)
この改善策によって、たしかに、人材不足の一部は解消するかもしれません。しかし、介護業界の待遇問題は解決されないままです。恐ろしいのは、こうした政策を作る側が(おそらく)意図しないままに「女性らが介護労働に参加するハードルを下げ〜」とただでさえ搾取されている日本の女性を、待遇の悪い世界に誘導してしまっていることです。
人材不足であるなら、本来は、需給バランスから、待遇(人件費)が改善するはずです。逆に、待遇の改善が行われないままに、人材不足が解消されてしまえば、貧困が拡大するだけです。貧困の拡大は、結果として、消費の低迷につながり、国の景気を悪化させ、国から未来を奪います。
現代の日本は、公務員と正社員ばかりが優遇される状態になってしまっています。日本の将来を考えたとき、本当に急務になってきているのは(1)国の税金の使い方の見直し(2)医療・介護職の公務員化(3)正社員と非正規労働者の労働条件統一、といった痛みをともなう改革による二極化の是正です。
実は、これに気づいている政治家や官僚の数は増えてきています。しかし、日本は過去に、少子化対策を「見送り三振」で失敗させています。そして今、目の前にある二極化対策もまた、少子化対策と同じように「見送り三振」にさせようとしているのです。
「見送り三振」を許すか、許さないかは、国民である私たち一人一人です。少子化対策の場合は、三振でアウトになってしまったのは、まだ生まれていない子供たちでした。しかし、二極化対策で三振することは、私たちの未来そのものをアウトにしてしまうという認識が求められるでしょう。
※参考文献
・読売新聞, 『人手不足深刻…介護労働のハードル下げるため、全国共通の入門研修制度創設へ』, 2017年7月10日
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