KAIGOLABの最新情報をお届けします。
日本でも、高齢者の虐待問題がクローズアップされてきています。よくニュースになるのは介護施設における介護職による虐待です。しかし実際には、介護をする家族による虐待のほうが、介護施設における介護職による虐待よりも、件数として100倍近く多いということは、もっと広く知られるべきでしょう。
日本における高齢者の虐待は、件数でカウントされています。ですから、実際には、どれくらいの割合で虐待が発生しているのか、わかりにくい構造になっているのです。そんな中、WHOが、世界28ヵ国における高齢者の虐待について調査し報告しています。以下、福井新聞の記事(2017年6月15日)より、一部引用します。
世界保健機関(WHO)は14日、世界28カ国・地域の調査で60歳以上の高齢者の6人に1人が何らかの虐待被害を経験しているとの研究結果を発表した。精神的な虐待が深刻と訴え、各国に介護従事者の研修や、電話相談などの対策強化を求めた。WHOは「高齢者への虐待は世界的に増加している」と指摘。この状況が続けば、高齢者が20億人に達する2050年には3億2千万人が虐待被害者になるとした。
気になるのは、この報告でも、虐待の当事者として、介護職が問題視されているところです。たしかにそれも大切ですが、介護をする家族へのフォーカスがもっとあるべきだと思います。そうしないと、介護施設における虐待だけが改善し、本丸である家族による虐待は置いてきぼりになってしまうからです。
日本では、2005年11月1日に「高齢者に対する虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律」(高齢者虐待防止法)が可決、成立しています(翌年4月より施行)。この中で、介護施設の従業員による虐待ではなく、家族など(養護者)による高齢者の虐待は、次の5つに分類されています(厚生労働省, 2006年)。
1. 身体的虐待 | 高齢者の身体に外傷が生じ、又は生じるおそれのある暴力を加えること。 | ・平手打ちをする、つねる、殴る、蹴る、無理矢理食事を口に入れる、やけど・打撲させる ・ベッドに縛り付けたり、意図的に薬を過剰に服用させたりして、身体拘束、抑制をする/等 |
2. 介護・世話の放棄・放任 | 高齢者を衰弱させるような著しい減食、長時間の放置、養護者以外の同居人による虐待行為の放置など、養護を著しく怠ること。 | ・入浴しておらず異臭がする、髪が伸び放題だったり、皮膚が汚れている ・水分や食事を十分に与えられていないことで、空腹状態が長時間にわたって続いたり、脱水症状や栄養失調の状態にある ・室内にごみを放置するなど、劣悪な住環境の中で生活させる ・高齢者本人が必要とする介護・医療サービスを、相応の理由なく制限したり使わせない ・同居人による高齢者虐待と同様の行為を放置すること/等 |
3. 心理的虐待 | 高齢者に対する著しい暴言又は著しく拒絶的な対応その他の高齢者に著しい心理的外傷を与える言動を行うこと。 | ・排泄の失敗を嘲笑したり、それを人前で話すなどにより高齢者に恥をかかせる ・怒鳴る、ののしる、悪口を言う ・侮辱を込めて、子供のように扱う ・高齢者が話しかけているのを意図的に無視する/等 |
4. 性的虐待 | 高齢者にわいせつな行為をすること又は高齢者をしてわいせつな行為をさせること | ・排泄の失敗に対して懲罰的に下半身を裸にして放置する ・キス、性器への接触、セックスを強要する/等 |
5. 経済的虐待 | 養護者又は高齢者の親族が当該高齢者の財産を不当に処分することその他当該高齢者から不当に財産上の利益を得ること。 | ・日常生活に必要な金銭を渡さない/使わせない ・本人の自宅等を本人に無断で売却する ・年金や預貯金を本人の意思・利益に反して使用する/等 |
これらを見ても明らかな通り、虐待は犯罪です。ただ、虐待が犯罪であり、厳しく罰せられることがわかっていてもなお発生してしまうのが虐待だと考えるべきです。すなわち、介護をめぐる虐待は、悪人が起こしていることではなくて、もともとは善人であっても、誰もが手を染めかねない犯罪だということです。
特に、この中でも心理的虐待は、虐待の中でも63.6%(平成15年度/複数回答)ともっとも多く報告されているものです。今回のWHOによる報告でも、同様の傾向が指摘されていることからも、心理的虐待は、世界的に問題視されてきていることがうかがえます。
他の虐待とは異なり、心理的虐待は、それは虐待であり犯罪という認識が広がっていません。しかし、心理的虐待が放置されていると、そこから、他の、より深刻な虐待に発展してしまう可能性があります。そうした意味からも、心理的虐待は虐待の入り口であり、特に注意する必要があるものです。
先の表をみていると気がつくと思いますが、心理的虐待とは、要するに「いじめ」です。いくら教育を強めても、なかなか、減っていかないのが「いじめ」です。教育の効果が浸透しにくいということは、それはある程度まで人間の本能に根ざしており、制御が難しいものであることを示しているでしょう。
「いじめ」は、他者の目がない密室であればあるほど、その危険性が増して行きます。ですから、心理的虐待を避けるには、まずは、家族(養護者)を孤立させてしまわないことが大切です。その意味からも、介護に、プロの介護職を介在させることの重要性が強調されてきます。
※参考文献
・福井新聞, 『高齢者6人に1人虐待被害 WHO、28カ国・地域調査』, 2017年6月15日
・厚生労働省, 『高齢者虐待防止の基本』, 2006年4月
KAIGOLABの最新情報をお届けします。