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日本版CCRCは、本当に進むのだろうか?50〜74歳という年齢層には可能性がある

日本版CCRCは、本当に進むのだろうか?50〜74歳という年齢層には可能性がある

医療と介護における東京圏と地方の逆格差

一極集中と言われるように、東京圏には、なんでもあるように思われます。しかし、東京圏の医療と介護が危機的な状態にあることは、意外と知られていません。東京圏での生活が立ち行かなくなる可能性は、医療と介護の不足というところから、拡大してしまいそうなのです。

医療や介護のサービス(保険内)を提供する組織の収入は、全国一律、その内容に応じて、法律で定められています。東京圏であっても、地方であっても、特定のサービスには、同じ価格が適用されます。サービスを受ける側からすれば、ここは当然に感じられる部分でしょう。

しかし、医療や介護のサービスを提供するために必要になる、医師、看護師、介護職の給与(人件費)は、東京圏のほうが、地方よりもずっと高いものになります。また、地代家賃も、東京圏は、地方とは比較にならない金額になるのは、みなさまご存知の通りでしょう。

東京圏では病院や介護事業者は増えない

つまり、日本において、医療や介護のサービスを提供する場合、利用者(患者・要介護者)1人あたりの売上は地方と差がないのに対して、コストだけは東京圏のほうがずっと高い状態にあります。病院や介護事業者にとって、東京圏は、儲からないのです。

儲からないというレベルならまだしも、東京圏の病院や介護事業者は、赤字経営になっていることが多いのが現状です。セレブ御用達の名門といわれる聖路加病院(東京都中央区)でさえ、ボーナスの遅配を起こすような経営危機にあります(PRESIDENT, 2017年)。

そして、病院や介護事業者の売上に相当する部分は、国の社会福祉財源(税金、社会保険料や介護保険料など)から出ています。社会福祉財源が枯渇しはじめているいま、数年ごとの法改正で、いまでさえかなり厳しい売上が、減らされてきています。今後の東京圏では、病院や介護事業者の倒産が増えていくはずです。

日本版CCRCという唯一の解決策?

東京圏における医療や介護のサービスを、地方よりも高額にすれば、この問題は解決します。社会福祉財源が潤沢にあれば、それも可能かもしれません。しかし、それは現実的な解決策にはならないでしょう(ありえますが)。

そうなると、東京圏では、病院や介護事業者が足りなくなる未来が確定してきます。同時に、高齢者が増えるのですから、なにも手を打たなければ、かなり悲惨な状態になるでしょう。そこで期待されているのが、日本版CCRC(Continuing Care Retirement Community)と呼ばれる秘策です。

日本版CCRCとは、簡単に言えば、高齢者の地方への移住政策です。医療や介護は充実しているものの、人口減少に苦しむ地方が、社会参加の場(仕事や趣味の会合など)を整えていくことで、東京圏の高齢者を呼び寄せようとしているのです。

実は、東京圏から地方への人口流出は、50〜74歳という年齢層に限って言えば、すでに発生しています。若年層では、地方から東京圏にやってくる人(流入)のほうが多いのですが、50〜74歳の層では、逆に、東京圏を出ていく人のほうが多いのです。

この自然な流れを刺激して、大きな流れにすることができたら、面白いことになります。東京圏は、若いときにやってきて、高齢者になると卒業していく場として、新たな機能を獲得する可能性が出てくるからです。それが新しい日本の形になれば、地方の人口問題や、東京圏の問題が改善する可能性が高まってくるでしょう。

※参考文献
・毎日新聞, 『日本版CCRC 室蘭市ら6市町が移住促進構想まとめる』, 2017年5月15日
・PRESIDENT, 『名門「聖路加国際病院」が経営危機に陥るわけ』, 2017年5月10日

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