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日本でも、高齢者の貧困問題は大きくなってきています。現在、日本の高齢者における貧困率は17.0%と、すでに深刻な状態にあります。日本で生活保護を受けている世帯を見た場合、その過半数が高齢者世帯です。
しかし、お隣の韓国では、高齢者の貧困率が45.7%と、より危機的な状況にあります。そして韓国における高齢者の自殺率は、世界と比較しても圧倒的に高いものになってしまっています。特に、75歳以上の高齢者の自殺率は、日本の3倍以上という水準です。
韓国は、日本よりも儒教的な国と言われることがありますが、それも変わってきているようです。儒教では、親を愛して敬うことが大切な価値とされています。しかし、こうした韓国における儒教の伝統は、急速に廃れつつあるようなのです。背景には、若者による親世代への信頼のゆらぎ(世代間闘争)がありそうです。
日本もそうですが、韓国でも、若者に厳しい社会が形成されてしまっています。2016年の数字でみると、若者の失業率は、日本の場合は5%台(15~29歳)なのですが、韓国はもっと深刻で10%台(15~29歳)になっています。
がんばってもなお失業してしまう若者が、そうした社会をつくった高齢者を大切におもう気持ちを持てなくなるのは、どこの世界でも同じことでしょう。ただ、これを高齢者の自業自得としてしまうと、誰も救われません。抜本的な対策が必要な場面なのです。
韓国では、2008年から、介護保険制度(老人長期療養保険制度)が開始されています。しかし、日本の介護保険制度とは異なり、韓国の制度では、あくまでも家族が介護の責任を負うという「元家族保護・後社会保障」という理念が採用されています。家族内での介護が不可能になった場合にのみ発動する、限定的な制度なのです。
これに対して、日本の介護保険制度は、介護の社会化(家族ではなく、社会全体で介護を支えていくこと)を理想としています。残念ながらそれも破綻しつつありますが、韓国よりは、介護をする家族に厳しくない制度が(まだギリギリ)維持できています。
さらに、高額所得者をのぞけば、日本の場合は、介護サービスを利用するときの自己負担は(いまのところは)10%です。韓国の場合は、これが15~20%であり、より利用者(要介護者)にとって厳しい条件になっています。
このように、韓国の介護保険制度には問題点が多くあり、今後の改革が望まれます。韓国の高齢化率(13.1%/2015年)は、まだ日本(26.3%/2015年)ほど高くはないので、この改革のための時間は、日本よりもずっと長いわけです。先に高齢化している日本の事例を使って、上手に改革できれば、よりよい高齢者福祉を実現できるでしょう。
以上のように、韓国における高齢者福祉には課題も多く、介護保険制度も未成熟です。ただし、韓国の敬老堂(Kyungrodang)と呼ばれる独特の仕組みには、日本も学ぶべき点が多く、見逃せません。敬老堂とは、高齢者の地域社会参加を促す仕組みです。
敬老堂は、韓国政府によって管理されており、韓国内に51,000カ所も設置されています。敬老堂への参加率も高いと言われており、一説に、韓国の高齢者の4割が敬老堂に通っているそうです。法律で、160世帯あたり1カ所という設置義務もあり、それが推進されています。
敬老堂で行われているのは、ダンスやマッサージ、囲碁や将棋、習字や語学といった、カルチャースクール的なものが中心です。そうした活動に参加する高齢者もいれば、ただ、そこに集まって雑談するような高齢者もいます。居場所を提供することで、高齢者が家に引きこもることを避けようとしているのでしょう。
こうした敬老堂の取り組みは、日本も学ぶべきもののように思います。高齢者の居場所をつくり、楽しみながら学ぶという環境を準備することが、介護予防になることは明白だからです。日本では、病院の待合室でたむろする高齢者が問題視されて久しいですが、敬老堂のようなものがあれば、それも解消するでしょう。
※参考文献
・NEWSWEEK日本版, 『日本の未来を予見させる、韓国高齢者の深刻な貧困問題』, 2017年2月8日
・SankeiBiz, 『韓国、若年層失業が悪化の一途 政府対策に期待した効果なく』, 2016年8月17日
・朴 保善, 『韓・日の高齢者の状況をめぐる比較に関する一考察』, 四天王寺大学大学院研究論集(6), 67-81, 2011年
・斎藤 嘉孝, et al., 『韓国における高齢者向け地域福祉施策』, 海外社会保障研究(No. 159), 2007年
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